震災や戦争などにより、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症することがある。PTSD患者は、トラウマ記憶のフラッシュバックや悪夢に悩まされる。その治療には、時間をかけてトラウマ記憶に向き合い、恐怖に慣れることで克服を目指す認知行動療法がとられてきたが、患者の精神的負担が大きいことが問題となっていた。
筑波大学の坂口昌徳准教授らは、夢が睡眠中の記憶の処理に関わっているという先行研究から、睡眠中にトラウマ記憶を弱められるのではないかと考えた。
研究グループは、特定の音を聞かせながら電気ショックを与えたマウスを実験に使用。このマウスは、その後音を聞かせるだけでおびえた反応を示すようになる。しかし、睡眠中に同じ音を聞かせた後では、音を聞いた時のおびえた反応が弱まることがわかった。
さらに、レム睡眠とノンレム睡眠での効果を比較し、ノンレム睡眠中に音を聞かせた場合にだけ、おびえた反応が弱まることを明らかにした。
本研究から、PTSD患者に苦痛を与えることなく、睡眠中の治療でトラウマ記憶を減弱させることができる可能性が示された。これがどのような脳内メカニズムによったものなのか、新しい治療法の開発に向けてさらなる解明も期待される。
論文情報:【Scientific Reports】Auditory conditioned stimulus presentation during NREM sleep impairs fear memory in mice