特定の物質を非常に低温まで冷却すると発現する「超伝導状態」。電気抵抗が突然ゼロになるとともに、外部からの磁場が排斥される完全反磁性という特性を示す現象だ。近年、電子間に強い相関が働く「強相関電子系」という物質群においても超伝導が実現することが確認されており、「非従来型超伝導」と呼ばれている。東京大学と京都大学などの研究グループは、非従来型超伝導の「先駆け」となったCeCu2Si2(Ce:セリウム、Cu:銅、Si:シリコン)の電子状態を明らかにした。
非従来型超伝導体においては、従来の超伝導よりも高い温度で実現する「高温超伝導」など、これまでにない発見が数多くなされている。その先駆けとなったのが、1979年、強相関電子系の一種の「重い電子系」でありながら超伝導になることが発見されたCeCu2Si2だ。
この物質では、磁気的なゆらぎが媒介することで超伝導が実現しているのではないかと信じられてきた。超伝導電子の電子状態は、従来型の金属超伝導体では「s波型」という対称性をもつのに対し、磁気的機構を起源とする超伝導体では「d波型」という対称性を示すことが期待される。そのため、CeCu2Si2も「d波型」の電子状態をもつと考えられてきた。
今回、研究グループは、CeCu2Si2の電子状態を明らかにするため、「超伝導ギャップ構造」と「不純物効果」という2つの性質を調査。その結果、CeCu2Si2が「d波型」ではなく「s波型」であることが明らかになった。
この成果は、磁気ゆらぎによって超伝導が実現すると考えられてきた「重い電子系」において、磁気的起源とは異なる機構が関与していることを示唆するものだ。これにより、強相関電子系における超伝導の研究に新たな指針を与えることが期待される。