東京農工大学大学院の柳澤実穂特任准教授らのグループは、人工的に創られた細胞モデル(リポソーム)に骨格を持たせ、現実の細胞並みに硬くすることに成功した。今回の成果は東京工業大学、慶應義塾大学、東北大学との共同研究によるもの。
人間の細胞は、細胞骨格と呼ばれるネットワーク構造により非常に安定している。主に脂質からなる人工的な脂質二重膜小胞であるリポソームは薬の輸送用カプセルや化粧品の材料として使われてきたが、細胞骨格のような構造がないため、わずかな刺激により壊れてしまうという問題があった。壊れにくくし、強度を自在に変化できればカプセルとしての機能を大幅に向上できるため、その手法が渇望されていた。
今回、リポソームの強度向上のため、細胞骨格のように膜を支えるネットワーク構造をDNAナノテクノロジー技術により構築した。研究で用いたDNAは、温度低下に伴い、分岐を維持しながら互いに結合してネットワーク状の構造を作る。またDNAは負電荷を帯びているため、リポソームの中のみに正電荷を帯びさせることで、正負の引き合いにより膜直下へのDNAの骨格形成を可能にした。リポソームは通常わずかな浸透圧差で崩壊するが、DNAからなる骨格を持つことにより体内で想定される浸透圧変化環境でも崩壊しなかった。この補強機能は、DNAが互いにネットワークを組むことに由来し、さらにその強度はDNAの塩基配列により決定されている。そのため、DNA構造を設計することによる強度制御が期待される。
リポソームの耐久性を高めることは、薬用カプセルや化粧品などへ応用する上での最も大きな課題だったが、今回の成果によりこの問題が克服される可能性があるとしている。