畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの西祐樹客員研究員らのグループは、手先が不器用な子どもが物体を持ち上げて保持する際に、把持位置のずれや物体の傾き、指の滑り・転がりといった空間的安定性が低下することを明らかにした。
運動の不器用さを特徴とする発達性協調運動障害(DCD)では、字を書くことやボールを使うスポーツ等、協調的な把持制御が要求される日常生活動作に障害をきたすことがわかっている。把持制御は内部モデルにおける感覚-運動統合(感覚フィードバック情報と運動指令の統合)が基盤となっており、DCDではこの内部モデルが障害されるために、物体把持における把持力の変動が大きくなってしまうという。一方、把持制御の重要な構成要素の一つである空間的安定性について、DCDの影響は明らかではなかった。
本研究では、6-12歳の子どもたちをM-ABC2の検査によって手先が器用・不器用のグループに分け、「物体を持ち上げ、保持する」課題を実施してもらい、それぞれの把持制御と空間的安定性を調べた。その結果、手先が不器用な子どもは、把持力の変動性に加えて、把持位置のずれや物体の傾き、指の滑り・転がりといった空間的安定性が低下していることがわかった。また、不器用な子どもは、物体の重さの違いによって、把持力を柔軟に調整するが、空間的安定性は適応できないことも示された。
手先が不器用な子どもは、内部モデルにおける感覚-運動統合が損なわれているために、触覚情報を効果的に運動に利用する能力が低下している。このことが、空間的安定性の低下をもたらす可能性があるとしている。そのため今後は、触覚の感度向上により感覚-運動統合を改善させるような介入をした場合の評価について、研究を行う予定だという。