慶應義塾大学の金井隆典教授らの研究グループは、愛媛大学との共同研究において、潰瘍性大腸炎患者における炎症抑制に有効とされる生薬「青黛(せいたい)」が、炎症抑制性免疫細胞(制御性T細胞)を大腸上皮直下に誘導することを実証した。
大腸には過剰な免疫反応を制御する細胞集団が存在し、その中心的役割を担う細胞として制御性T細胞(Treg)が知られている。このTregの欠損や機能不全により発症する炎症性腸疾患の一つに潰瘍性大腸炎(UC)がある。持続性・反復性の下痢・粘血便・腹痛を主症状とし再燃寛解を繰り返す原因不明の難病で、若年層を中心に増加傾向にある。免疫反応の活性化を抑制する治療が中心となっているが、いずれの治療も無効な症例や、副作用の問題で使用できない症例も少なくない。
そこで、研究グループは、中国で古くからさまざまな慢性炎症性疾患に民間療法として使用されてきた生薬「青黛」に着目した。UC患者への有効性は示されていたが、炎症抑制の仕組みは不明だった。
マウスを用いた研究で、青黛は腸管の炎症を抑制し、大腸に特徴的な遺伝子を発現するTregを増加させていた。青黛服用患者の直腸粘膜組織でもTregの増加が確認された。青黛はマウスやヒトにおいて、腸管上皮細胞を通じ、Tregを腸管上皮直下に誘導することで炎症を抑制することが明らかになった。
この作用に関し、青黛のどの成分が関与しているかはまだ不明瞭であり、青黛の長期服用による重篤な副作用も報告されている。今後、上皮修復機序の詳細な解明により、従来の免疫抑制による潰瘍性大腸炎治療とは一線を画した新規治療法につながる可能性が期待されるとしている。