東京大学の三上秀治助教、合田圭介教授らは、情報通信技術を応用して生体の観察に不可欠な共焦点蛍光顕微鏡の撮像速度を桁違いに高速化する技術を開発。毎秒1万6,000フレームの速度での生体試料の観察に成功した。
生物学や医学では、細胞や組織などの生体試料の観察に共焦点蛍光顕微鏡(注)が不可欠だ。この顕微鏡により複雑な生体試料の狙った部分だけの観察や1ミクロン以下の微細な構造の観察が可能となる。しかし、従来の共焦点蛍光顕微鏡は撮像速度が非常に遅く、多数の画像を短時間で取得したり、高速に変化する生体試料の様子を捉えたりすることは困難だった。
今回、「周波数分割多重」や「直交振幅変調」と呼ばれる情報通信技術を用いて、生体試料の別々の場所から出てくる蛍光信号をまとめて捉えることで、撮像時間を大幅に短縮。これにより、1秒あたり1万6,000フレームというきわめて高速度で生体試料の観察像を取得することに成功した。従来の共焦点蛍光顕微鏡の画像取得速度は1秒に数フレーム~数10フレームであり、今回約1,000倍の高速化を達成した。
この技術を応用して、ユーグレナの3次元水中行動を世界で初めて毎秒104コマの高速度(一般的なテレビ映像は毎秒60コマ)で捉えることに成功。さらに、細胞集団を整列させて流体中を高速に流しながら、約5,000個という膨大な量の細胞の個々の画像を短時間で取得・解析し、別々の条件で準備された細胞試料(マウス白血球)を、約99%の高精度で識別できることを実証した。
今回開発した技術を用いることで、がん細胞の診断やバイオ燃料探索、また生体の3次元構造の高速変化の捕捉など、さまざまな分野への応用や基礎科学での新たな発見が期待される。
注:蛍光処理した試料にレーザー光を照射して試料の蛍光画像を取得する顕微鏡。
論文情報:【Optica】Ultrafast confocal fluorescence microscopy beyond the fluorescence lifetime limit