東京大学の柴田智華子病院診療医らの研究グループは、膵がんから血液中に放出される細胞外小胞は、脂肪細胞と接着しやすい分子を持つことで脂肪分解を惹起することを同定し、膵がんにおける体重減少・がん悪液質の機序の一端を解明した。
進行したがんの患者では、全身の脂肪や筋肉が萎縮して体重が極端に減少する「悪液質」の症候がしばしば見られる。一方、膵がんでは、まだ病変が局所にあるうちから体重減少を示す。膵がんでは局所に限局する小さながん病巣でも、なぜ体重減少が起きるのか。そのメカニズムは十分には解明されていなかった。
研究グループは、局所にとどまるがん病巣から血中に放出された細胞外小胞が全身の脂肪細胞に働いて脂肪分解や体重減少を起こすという仮説を立てて検討した。
研究では、由来細胞が多様で不均一な集団である血中の細胞外小胞群の中から、膵がん由来と考えられる細胞外小胞だけを単離して解析する方法を新たに確立。その解析により、膵がん由来の細胞外小胞には脂肪細胞との接着に重要な接着因子(細胞接着に関与する分子)が高発現しており、脂肪細胞に接着した細胞外小胞が脂肪細胞内に取り込まれた結果、脂肪分解が起きることが分かった。
今回の研究手法を応用することで、血液中の細胞外小胞研究分野では、従来の「不均一な細胞外小胞集団の一括解析研究」から「特異的な亜集団や個別の細胞外小胞を解析する研究」へのパラダイムシフトが生じることが期待される。また、今回明らかにされたがん悪液質の発症機構は、がん患者の支持療法の開発につながるとしている。