畜産業においてアニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼養管理)は世界的な潮流となっている。日本でも、家畜をより良い環境で飼養し、持続可能な生産システムを構築するために、アニマルウェルフェアを向上させた生産物の需要がいずれ高まることが予測される。
一方で、アニマルウェルフェアに配慮した飼養の導入には、生産性低下、農家の経済的負担、従事者の労働時間の増加など、数々の懸念事項が挙げられる。中でも、欧州の約2倍量を国内で生産している鶏卵については、多くの鶏が大規模農家によって飼養されていることから、生産システムの転換がもたらす影響を把握し、浮かび上がった課題の解決を図ることが必要である。
そこで、北海道大学および株式会社ハイテムの研究グループは、約11万羽を飼養する採卵鶏生産システムを仮想し、4施設6タイプの飼養システム別にアニマルウェルフェアを導入した場合の影響をシミュレーションした。
生産性(卵の個数)は、現在の日本の採卵鶏生産の9割で使用されているコンベンショナルケージ(CC)を基準とした場合、ケージ内に産卵場所や止まり木が設置されているエンリッチドケージ(EC)で26%、多段式平飼いのエイビアリー(AV)で29%、平飼い(BR)で32%の減少が認められることがわかった。
1パック10個入あたりの生産コストにすると、CC:122円、EC:134円、AV:211円、BR:287円となり、結果として小売価格はCC:247円に対してEC:281円、AV:373円、BR:485円と推計され、1.1倍~2.0倍に高くなることが明らかとされた。
そのほか、労働人数・時間、飼養要求農場面積にいたるまで、アニマルウェルフェアの導入が多くの影響を及ぼすことが示された。特に平飼い(BR)は、多くの労働人数・時間、農場面積を必要とし、経済的側面や農地取得の問題から大規模生産が非常に困難であることが示されたという。
日本における“科学的な知見に基づいたアニマルウェルフェアに配慮した飼養システムの構築”に向けて、本研究成果は重要な示唆を与えるものといえる。