東京大学の研究グループは、理化学研究所と共同で、価数の量子相転移とそれにともなう量子臨界現象を世界で初めて発見した。
水が氷や水蒸気へ変わるように、物質の状態が変わることを相転移と呼ぶ。水の液体-気体相転移は常圧では100℃で起こるが、加圧すると相転移温度は上昇していき、ある条件の高温・高圧下では液体と気体が区別できない超臨界流体となる。超臨界流体は気体の拡散性と液体の溶解性を併せ持つため、工業面で広く応用されている。
水の相転移のような温度変化による相転移に対し、絶対零度で圧力や磁場を変化させた際の相転移は量子相転移と呼ばれる。量子相転移前後の臨界揺らぎがどのような性質を生み出すか、長年興味が持たれてきたが、水などの流体を絶対零度にして量子相転移を引き起こすことは実現困難とされてきた。
そこで本研究では、超臨界流体に似た性質を持ち、かつ量子相転移が可能な候補として、物質中のイオンが持つ電子の数(価数)が変わる相転移に着目。圧力により価数が変動する性質を持つイッテルビウム化合物に、鉄を微小量添加すると圧力と似た効果が得られることを利用して、価数が急峻に変化するクロスオーバーの観測に成功した。
また、価数のクロスオーバーと同時に、磁化が非常に大きいにも関わらず磁気秩序を示さない異常金属状態を発見した。これは、磁性的な性質を示す価数が高い状態と、非磁性的な性質を示す価数が低い状態の揺らぎが実現していることを示すもので、価数の量子相転移を実験的に確立した世界で初めての実例となった。
この価数の臨界揺らぎは超臨界流体の電子版とも言え、新たな「量子」超臨界流体の発見を促すものと期待されている。
論文情報:【Science Advances】Quantum Valence Criticality in a Correlated Metal