東北大学大学院歯学研究科の坪谷 透助教、東京医科歯科大学大学院の松山 祐輔研究員らの研究グループは、東日本大震災後の医療費自己負担免除制度が城県の医療サービス利用に与えた影響を明らかにした。
東日本大震災後、被災者の医療費自己負担を免除する施策を導入された。宮城県では2013年4月からこの施策は中断され、その1年後に対象者を縮小し再開されている。こうした政策の変化があるなかで、研究グループは、2008年4月から2015年6月の宮城県の医療費および医療機関受診件数(レセプト枚数)を分析し、震災後の自己負担免除施策が宮城県の医療サービス利用にどのように影響を与えたかを評価した。
分析の結果、医療サービス利用は、震災後約1年にわたり増加し、ピークを迎え、その後は横ばいまたは緩やかに低下。医療費の自己負担が免除される制度が中断される直前(2013年3月末)には、再び医療サービス利用が急激に増加し、その後自己負担が再開されると、再び減少した。
この変化は、医科にくらべて価格弾力性の大きい歯科で大きかった。また、後期高齢者医療制度(震災前の自己負担割合1割)にくらべ、自己負担割合が大きい国民健康保険(震災前の自己負担割合2~3割)でより顕著に観察された。さらに、免除中断時の医療サービス利用減少は、免除対象者が多い市町村で大きいことがわかった。これらの結果から、医療費自己負担が平時の適切な受診を抑制している可能性が示唆された。
今回の研究で、東日本大震災後、宮城県の医療サービス利用は、医療費自己負担免除施策の下、震災後1年程度まで増加し、被災者に対する医療費自己負担の免除政策は、被災者の医療受診に貢献していたことがわかった。今後も起こりうる大災害のあとには、このような被災者を支える政策は重要といえる。