長崎大学熱帯医学研究所の伊東啓助教が、静岡大学、大阪公立大学、九州大学と共同で世界8の国と地域を対象とした薬が効かない薬剤耐性菌に関するオンライン調査を実施したところ、各国の15~30%が社会的ジレンマを抱えていることを突き止めた。
長崎大学によると、調査は日本、米国、英国、スウェーデン、台湾、オーストラリア、ブラジル、ロシアの約4万2,000人を対象に実施した。
各国とも最も多かった回答は「自分も他人も抗生剤の使用を控える必要はない」で、約50%に上った。これに対し、各国の15~30%は「自分は気軽に抗生剤を使用したいが、他人には抗生剤の使用をなるべく控えてほしい」と答え、社会的ジレンマを抱えていることが明らかになった。
抗生剤の使い過ぎによって発生する薬剤耐性菌が大きな問題になっている。薬剤耐性菌による死者は2019年で世界127万人と推計され、エイズやマラリアによる死者数を上回っている。
薬剤耐性菌の出現を抑えるには抗生剤の使用を控えなければならないが、患者自身が「自分は抗生剤を処方してほしい」と考え、乱用に歯止めがかからない可能性がある。このような状況をゲーム理論では社会的ジレンマと呼ぶ。
社会的ジレンマの存在を確認したのは、今回の調査が初めて。薬剤耐性菌の問題は今後、事態の悪化が予測されているが、各国の人々が個人の望む医療より薬剤耐性菌問題の解決を優先する社会の到来を望んでいない厳しい現実も明らかになった。