海水魚は海水を毎日大量に飲むが、海水に含まれるホウ酸は体内に蓄積すると毒性を示す。そのため、海水魚はホウ酸を排出する何らかのしくみを備えていると考えられるが、これまで謎のままであった。
東京工業大学、メイヨー医科大学(米国)、東京大学、株式会社海遊館などのグループは、海水飼育のフグと淡水飼育のフグ体内のホウ酸を調べた。まず、450μMのホウ酸を含む海水で飼育されたフグの腸内ホウ酸濃度は、150μMであった。海水のホウ酸濃度よりも腸内液のホウ酸濃度が著しく低いことから、海産フグはホウ酸を腸で吸収していると考えられた。
次に、尿中ホウ酸濃度を比較すると、海水飼育のフグは19,000μM、淡水飼育のフグは20μMであった。海水飼育フグの尿には、淡水飼育フグの尿の1,000倍ものホウ酸が存在していたことから、海産フグは、腸から吸収したホウ酸を尿中に濃縮・排出していることが示唆された。
そこで、研究グループは、ホウ酸排出機構の解明を進めるため、フグ腎臓における網羅的な遺伝子発現解析を行った結果、海水飼育時に発現量が上昇する膜輸送体「Solute carrier family 4 member 11A(Slc4a11A)」を見出した。電気生理学的手法により、Slc4a11Aの活性を調べたところ、ホウ酸に応答する起電性の輸送体であることを確認した。Slc4a11Aは、細胞内外のpH勾配と電位差を駆動力として、濃度勾配に逆らってホウ酸を尿中に輸送することができるといい、ホウ酸を高濃度に含む尿を産生することができる。
以上により、海水魚が尿を介してホウ酸を排出する体内メカニズムと経路が明らかとなり、その中でもSlc4a11Aが重要な役割を果たすことを示した。本研究成果は、海洋生物の海水適応機構の解明への寄与や、持続可能な海水魚の養殖等への応用が期待されるとしている。