京都大学の梅本滉嗣修士課程学生と高柳匡教授は、量子ビットの「純粋化量子もつれ」と呼ばれる情報量を計算する新しい幾何学的公式を発見した。超弦理論の理解に役立つと期待される。
ミクロな世界を支配する物理法則は量子論と呼ばれており、また物質のミクロな構造のなかに含まれる情報の基本単位を量子ビットと呼ぶ。そして、重力の理論(万有引力、一般相対性理論)と量子論を融合して、宇宙の統一理論の構築を目指す分野が超弦理論である。この分野では最近、「重力理論における宇宙は、量子ビットの集合体と見なせる」という新しい考え方が支持され活発に研究されている。
この考え方にいたる契機となったのが、2006年に発見された笠ー高柳公式。これは「物体Aと物体Bの二つの間に共有される量子ビットの情報量(AとBの間にある相関)は、物体に対応する宇宙(注)の最小断面積に等しい」というもの。しかし、この公式で正しく情報量が計算できるのは、AとB以外には物体が存在しない場合(純粋状態)に限られるという制限があった。
AとBの領域にはこれらをつなぐトンネルを作ることができ、AとBの情報はこのトンネルの内部空間(Entanglement Wedgeと呼ばれる)に反映されることが知られている。今回の研究では、AとB以外の物体が存在する場合(混合状態)に対しても適用できる大幅に一般化された公式を発見した。それは「AとBの間に共有される量子ビットの情報量(純粋化量子もつれ)は、AとBをつなぐトンネルの最小断面積に等しい」という内容である。
この公式は、量子ビットの理論と重力理論をつなぐ新しい道具を提供し、超弦理論のさらなる理解、並びに量子情報理論への応用に役立つと期待される。
注:反ドジッター宇宙と呼ばれ、宇宙定数(ダークエネルギー)が負の宇宙のこと。
論文情報:【Nature Physics】:Entanglement of purification through holographic duality