畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの西祐樹客員研究員と森岡周教授らの研究で、慢性腰痛者は運動恐怖により予測的姿勢調節の機能不全をきたし、結果として運動・姿勢制御にも悪影響を及ぼすことが明らかとなった。
慢性腰痛者では、痛みがもたらす運動恐怖によって、“凍結行動”と呼ばれる運動時の腰部に対する過剰な保護や運動の緩慢化が生じることがある。一方、運動を効率的かつ正確に制御するためには、運動に伴う身体の動揺を考慮した“予測的姿勢調節(Anticipatory postural adjustment:APA)”によって、運動実行前に姿勢を調整することが重要だが、“凍結行動”を呈する慢性腰痛者の腰部運動においてAPAがどのように機能しているかは明らかではなかった。
この問題を明らかにするため、本研究グループは地域在住の慢性腰痛者48名および健常高齢者22名の体幹の屈曲伸展運動におけるAPAや足圧中心(COP)の計測を行い、運動・姿勢制御を調べた。
その結果、慢性腰痛者では、健常高齢者よりもAPA時間および屈曲伸展の切り替え(運動制御)にかかる時間が延長していた。また、慢性腰痛者のCOPの位置(姿勢制御)は、体幹の屈曲により前方に偏位した後、体幹を伸展させても正中へ偏位せずに前方位置に残存したままとなる現象が観察された。これは、慢性腰痛者において運動制御および姿勢制御に凍結様の過剰な保護が生じていると考えられる。
さらに、これらの媒介分析では、屈曲伸展の切り替え時間とCOPの前方変位は、APAと運動恐怖に関連することが示された。すなわち、慢性腰痛者では、運動恐怖によって凍結行動のような過剰な保護戦略が生じる結果、予測的姿勢調節の機能が低下し、これを媒介して運動・姿勢制御にも悪影響が及んでいるということができる。
本研究成果は今後、慢性腰痛のさらなる病態理解に寄与することが期待される。