北海道大学の伊藤肇教授らと日本化学工業株式会社の研究グループは、高性能な「キラル触媒」の開発に成功した。工業的に重要な「脂肪族末端アルケン」の新しい反応の開発に必須の触媒だ。安価な材料から目的とする物質を効率的に合成できるため、特に医薬品のコストダウンが期待される。
「ヒドロホウ素化反応」は、脂肪族(鎖状炭素化合物)の末端アルケン(炭素二重結合)の二重結合にホウ素原子が導入される反応で、様々な有機化合物を合成が可能だ。この反応ではホウ素原子が常に二重結合の末端の炭素原子上に導入され、内部側の炭素原子上に導入される反応は非常に難しく、開発例がほとんどなかった。
2016年に研究グループは、脂肪族末端アルケンの内部側にホウ素を導入する反応(マルコフニコフ型ホウ素化反応)を世界で初めて報告した。しかし、得られる化合物には鏡像関係にある2つの型(右手型と左手型)があり、工業的にはいずれかの選択(エナンチオ選択性)が求められるが、この時点では制御に成功していなかった。
この問題解決には、右手型・左手型を選択できる、すなわち光学活性化合物を合成できる新しい「キラル触媒」の開発が必須。そこで今回、コンピューターによる量子化学計算と実証実験を多段階で繰り返し行い、その結果、キラル触媒の中心部である「キラルリン配位子」の合理的設計を成し遂げて高性能なキラルホウ素化触媒の開発に成功し、60年間達成できなかった「脂肪族末端アルケンの高選択的不斉マルコフニコフホウ素化」を実現した。
今回の成果により、工業的に得られる安価な混合物から、医薬品原料の効率的製造が可能になり、医薬品のコストダウンにつながることが期待される。