東京大学医科学研究所附属病院脳腫瘍外科の藤堂具紀教授らは、主にアスベストが原因で発症する悪性胸膜中皮腫に対するウイルス療法の臨床試験を開始することを発表した。
悪性胸膜中皮腫は主として胸腔に発生する悪性腫瘍で、アスベスト(石綿)が主な原因と考えられている。アスベストは1960年代から1980年代に広く利用され、吸入被曝後30年から40年経過してから悪性胸膜中皮腫が発生するため、今後数十年間は患者数の増加が危惧されている。
藤堂教授らは、第三世代のがん治療用単純ヘルペスウイルス1型のG47Δを開発し、これを用いて悪性胸膜中皮腫に対するウイルス療法を行う予定である。ウイルス療法とは、がん細胞だけで増殖するよう人工的に改変したウイルスを使う新しいがん療法であり、ウイルスはがん細胞に感染するとすぐに増殖を開始し、その過程で感染したがん細胞を死滅させる。これまでは、腫瘍にG47Δウイルスを直接投与する方法が用いられてきたが、悪性胸膜中皮腫は胸腔内に広く散らばって増える腫瘍であるため、今回初めて患者の胸腔内に投与する方法を用いる。繰り返し胸腔内に投与することの安全性と同時に、治療効果を調べることが目的だ。
今回の臨床試験で、胸腔内への繰り返し投与の安全性と治療効果が確認されれば、悪性胸膜中皮腫のみならず、現在有効な治療法がないがんの胸腔内あるいは腹腔内播種に対する治療にも、G47Δを応用できる期待が高まる。
参考:【東京大学医科学研究所附属病院】悪性胸膜中皮腫のウイルス療法を開始~抗がんウイルス G47Δを用いた初の胸腔内投与~(PDF)