東京農工大学大学院の大森啓太郎准教授らの研究グループは、アニコム先進医療研究所株式会社との共同研究により、アトピー性皮膚炎の犬に健常犬の便を移植する糞便移植療法が、アトピー性皮膚炎の犬の腸内細菌叢を改善し、皮膚炎や痒みなどの臨床症状を軽減させることを発見した。
糞便移植療法(FMT)は、腸内細菌叢の構成異常を改善する「腸内細菌叢移植」とも呼ばれる治療法で、様々な疾患への効果が検証されている。研究グループはこれまで、犬の消化器疾患などへのFMTの有効性を報告してきたが、アトピー性皮膚炎の犬に対するFMTの有効性は検証されていなかった。
研究グループは初めに、アトピー性皮膚炎の犬と健常犬の腸内細菌叢を比較解析した。その結果、アトピー性皮膚炎の犬では腸内細菌叢の多様性が低下し、いわゆる悪玉菌の増加傾向を認めた。さらに、細菌の数や種類の豊富さが低下し、健常犬の腸内細菌叢の構成とは大きく異なっていた。
次に、健常犬の新鮮便から作成した糞便溶液をアトピー性皮膚炎の犬に経口投与するFMTを1回実施。その結果、アトピー性皮膚炎に伴う皮膚炎と痒みが有意に改善。さらに、アトピー性皮膚炎の犬の腸内細菌叢が健常犬に類似し、また、悪玉菌が減少して細菌の数や種類の豊富さも改善した。これにより経口FMTがアトピー性皮膚炎の犬の腸内細菌叢を正常化し、臨床症状を軽減したと考えられた。また、経口FMT後に重度な有害事象は認めなかった。
経口FMTは麻酔や鎮静処置の必要がなく、内視鏡などの特別な機器も用いない簡便な治療法。今後は、アトピー性皮膚炎の犬の臨床症状を改善する有効な細菌を解析し、効率的で簡便な経口FMT法の開発を目指すとしている。