東京農工大学の臼井達哉特任講師らは、膀胱がん罹患犬の尿に含まれる微量ながん幹細胞から生体内の膀胱がん組織を培養ディッシュ上で再現する新たな実験モデルを確立した。

 イヌの膀胱がんは悪性度が非常に高く、ほとんどが早期に死亡するため新規治療法の確立や診断マーカーの探索が課題だった。また、イヌの膀胱がんはヒトの浸潤性膀胱がんの病態に類似し、自然発症浸潤性膀胱がんの実験モデルとなり得るが、利用可能な細胞株が少なく活用されていない。

 最近、がん組織を用いた三次元培養(オルガノイド培養)法がオーダーメイド医療の有用なツールとして期待されている。「がんオルガノイド」は、生体内の組織やその特性の再現度が高いとされる。一方、イヌの膀胱がんは、多くが診断時に末期的な症状を示し、手術やバイオプシー(生体組織診断)による組織の採取が困難で、既存のオルガノイド培養法の実施は不可能だった。

 研究チームは、膀胱がん罹患犬の尿中に含まれる微量ながん幹細胞に着目。三次元培養法を用いて尿サンプル由来がんオルガノイドの作製を試みた結果、17検体中12検体で作製に成功した。作製したがんオルガノイドは、イヌの尿路上皮がんに類似する上皮構造が観察された。生体内(免疫不全マウス)においても作製したがんオルガノイドが腫瘍形成能を有し、抗がん剤の単剤あるいは併用処置による感受性が個体間で異なることや、ヒトの浸潤性膀胱がんと同じタイプであることが分かった。

 今回の研究成果は、イヌの膀胱がんの最適治療薬の選択や、早期診断マーカーの開発に加えて、ヒトの浸潤性膀胱がんの新規治療薬開発や病態メカニズムの解明につながることが期待される。

論文情報:【Cancer Science】Establishment of a novel experimental model for muscle‐invasive bladder cancerby using dog bladder cancer organoid culture

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