大阪大学大学院満留敬人准教授らの研究グループは、自然界に豊富に存在する安価で低毒性の鉄を用いて、高活性・高耐久性の液相水素化用触媒の開発に世界で初めて成功した。稀少金属を用いない次世代型触媒反応プロセスの開発が期待される。
鉄は地殻中に豊富に存在し、安価・低毒性のため魅力的な触媒材料だが、水素化反応で200℃以下の温和な液相反応条件下では著しく活性が低い。また、従来の鉄触媒は、微量の酸素存在下でも容易に酸化され失活する。そのため、触媒の取り扱いや改良が難しく、鉄系固体触媒の開発の進歩は著しく遅れている。
今回、研究グループは、鉄とリンで構成されるリン化鉄をナノ化したリン化鉄ナノ粒子(Fe2P NC)を独自技術で合成。このリン化鉄ナノ粒子が、200℃以下の低温領域で、工業的に重要なニトリルの水素化反応に高活性・高耐久性を示す固体触媒となることを見出した。
また、リン化鉄ナノ粒子は従来の鉄触媒とは異なり、大気に安定で取り扱い易く、触媒の改良が容易だ。そこで、リン化鉄ナノ粒子を酸化チタン(TiO2)と複合化すると、リン化鉄ナノ粒子の水素化能が著しく向上。この鉄触媒(Fe2P NC/TiO2)を用いたニトリルの水素化により、ポリマー原料や医薬中間体として重要な様々なアミン類の選択的な合成に成功した。また、反応後の触媒は遠心分離で反応溶液から簡便に分離でき、高活性を維持したまま再使用できた。
今回の研究成果は、現在多くの触媒反応プロセスで使用され、枯渇や毒性による使用制限が懸念されている稀少金属を、自然界に豊富に存在する安価な鉄に代替できる可能性を示唆するものとしている。