日本原子力研究開発機構、大阪大学、東京大学大学院の研究グループは、水溶液中にイオンとして溶けたラジウムと、その周辺に存在する水分子の構造について、分子レベルの観測に世界で初めて成功した。ラジウムの分子レベル研究の幕開けにより、各分野での課題解決が期待される。

 ラジウムはキュリー夫妻により124年前に発見された放射性元素。放射線がん治療や環境中物質の放射年代測定法に利用されている。最近では地下資源の採掘により表出する機会が増えたため、詳しい化学的性質の解明が急務とされている。

 しかし、ラジウムを用いる実験は被ばくの危険を伴う。そのため、分子レベルの実験が現在も実施できず、化学的性質のほとんどは不明だ。特に、体内や環境中ではラジウムは水に溶けているため、化学的性質の解明のためには、水に溶けたラジウムの姿の詳細な観測が重要となる。

 そこで、研究グループは高濃度ラジウムを安全に扱う実験工程を確立し、世界最高性能の放射光実験施設の一つであるSPring-8を利用して、水に溶けたラジウム(Ra2+水和構造)の分子レベルの観測に世界で初めて成功した。さらに、スーパーコンピューターを用いたシミュレーションにより、Ra2+は同族元素よりも周辺の水分子を束縛する力が弱く、水和構造が変化しやすいことが判明。このため、水に溶けたラジウムは生体や環境中物質に取り込まれやすいことが分かった。

 今回の研究によりラジウムの化学的性質を分子レベルで調べる研究手法が確立した。今後、この手法を基に、放射線がん治療薬の作用メカニズム解明や新薬開発、放射年代測定の精緻化、環境問題への貢献等、社会的に重要な課題の解決が期待されるとしている。

論文情報:【iScience】EXAFS spectroscopy measurements and ab initio molecular dynamics simulations reveal the hydration structure of the radium(II) ion

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