立教大学スポーツウエルネス学部の服部淳彦特任教授らは、老齢になると記憶力が低下する原因の一つが、海馬におけるN1-acetyl-5-methoxykynuramine(AMK)量の低下にある可能性を突き止めた。
本研究グループは2021年に、脳の松果体から夜間に分泌されるメラトニンの代謝産物であるAMKが、強い長期記憶の誘導効果(短期記憶から長期記憶への固定作用)を持つことを見出している。そのため、今回の研究では、加齢に伴う記憶力の低下にもAMK量が関与しているとみて、老齢マウスを用いた解析を行った。
まず、AMKの合成経路を調べたところ、松果体から分泌されたメラトニンは血液を介して海馬に到達し、海馬においてAMKに変換されることが分かった。次に、若齢マウスと老齢マウスの海馬におけるAMK量を測定して比較した結果、老齢マウスのAMK量は若齢の1/20以下にまで激減していることが判明した。老齢マウスでは、AMKの合成にかかわる酵素の遺伝子発現が有意に減少していたという。従って、AMKが加齢に伴う記憶力低下の原因の一つである可能性が示唆された。
実際に、AMKをマウスに投与すると、海馬において記憶形成に重要なタンパク質のリン酸化が誘導されることを見出したとしており、AMKが短期記憶から長期記憶への「記憶の固定」に関与することが考えられるとしている。
また、老齢マウスと若齢マウスの海馬で発現している遺伝子の網羅的解析では、老齢になると長期記憶形成に関与する遺伝子群が有意に低下することも見出した。
超高齢社会を迎えた諸国において、加齢に伴う記憶力低下の改善は、高齢者の生活の質(QOL)向上に向けた重要な課題である。本研究成果により、AMKを基盤とした新薬の開発が、加齢性の記憶力低下の改善や、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)における記憶力改善につながることが期待される。