一般に、高齢者は段差を跨ぐ際につまずきによる転倒リスクを減らすために足を必要以上に高く上げる傾向がある。東京都立大学の研究グループは、この行動が動きの柔軟性を低下させる可能性を明らかにした。
歩行中に段差を跨ぐ場面は、高齢者の転倒発生頻度が最も高いことが知られている。そのため、一部の高齢者は、足を高く上げることによって段差との衝突を回避するという保守的な方略をとる。しかし、足を高く上げることで、大きい段差でも小さい段差でも同じように回避できてしまうため、こうした方略をとる高齢者は、日常生活場面で動きを調整する機会がなくなってしまう。
本研究では、このような動きを調整する機会と、動きの柔軟性(状況に応じて柔軟に動きを変化させる能力)との関連を検討するために、健常な若齢者21名と、65歳以上の健常な高齢者26名に繰り返し段差を跨いでもらう実験を行った。このとき、Uncontrolled manifold(UCM)解析という解析手法を応用し、段差を跨ぐ行動の柔軟性を、“関節間の連動性”として定量化した。
結果として、高齢者は若齢者と比較して段差跨ぎ時に関節間の連動性が低下していることが示された。さらに、年齢にかかわらず、段差跨ぎ時の足の高さと、関節間の連動性に有意な負の相関関係が見出されたという。すなわち、段差跨ぎ時に、足を高く上げる傾向がある人は、段差を跨ぐ際の柔軟性が低いことが明らかとなったといえる。
本研究成果は、段差跨ぎ時に安全を意識していつでも足を高く上げることが、動きの柔軟性を低下させ、むしろバランス維持や障害物回避の妨げになる恐れを示唆した。日常的に同じ動きを繰り返すことは、不意の変化に対応するための柔軟性を低下させる一因となるのかもしれない。この知見は、柔軟性低下から脱却するリハビリテーション方法の開発にもつながることが期待される。