国公立大学の年内入試が拡大しています。中でも難関国立大学の総合型選抜・学校推薦型選抜が拡大しており、入試区分の1つとして存在感を増しています。大学入学共通テストを課す方式の場合、2月上旬に2次試験を行う大学もあるため、正確には年内入試ではありませんが、早期合格することに変わりはありません。そのため、私立大学の一般選抜への影響も入試日程のバッティングなどを含めて以前より大きくなっています。また、受験生を指導する高校としても今や前期日程に次ぐ募集人員規模となった国公立大学の年内入試への対策は欠かせないものとなりつつあります。

 

募集人員の規模としては後期日程をはるかに上回る

 東京大学の学校推薦型選抜や京都大学の特色入試に代表されるように、ここ数年で難関国立大学の総合型選抜・学校推薦型選抜が拡大しています。東北大学や筑波大学などのように2000年にアドミッション部門を立ち上げて、熱心に取り組んできた大学もありますが、多くの国立大学は法人化以降、徐々に新規導入や拡大などを行ってきました<図1>。難関国立大学の場合は後期日程を縮小・廃止する代わりに、総合型選抜・学校推薦型選抜を導入してきたというのが共通した特徴です。

 現段階で募集人員がどれぐらいの規模になっているかを文部科学省が毎年9月に公表している「国公立大学入学者選抜の概要」で改めて確認したところ、思っていた以上の存在感でした。昨年9月に公表されていた「令和6年度国公立大学入学者選抜の概要」を見ると、2024年度入試で国立大学の総合型選抜・学校推薦型選抜は募集人員の20%にまで増えており、後期日程のほぼ倍の規模です。公立大学に至っては、後期日程と中期日程の合計よりも多い32%となっています<表>。毎年公表される資料ですので、毎年確認していれば当然の数字なのですが、今更ながらその規模がいかに大きいかが分かります。

 来年、2025年度入試でもその規模は拡大する傾向にあります。河合塾の進学情報サイトKei-Netで「2025年度 国公立大入試変更点」を見ると、東京大学が学校推薦型選抜の出願資格を既卒1年まで可能とするなど条件を緩和しています。対象者が拡大されれば出願者も合格者も増える可能性があります。また、東京科学大学(現東京工業大学)も理学部、工学部で総合型選抜を新規に導入し、工学部は70人の女子枠も導入します。女子枠として70人というのは破格に多いため、他大学への影響も大きいと思います。また、名古屋大学の理学部でも総合型選抜が新たに導入されます。ちなみに、いわゆる旧帝大系の理工系で最初に女子枠を導入したのは名古屋大学だったかと思います。それでも現東工大に話題が集中するのは、その女子枠の規模が大きいからでしょう。今年、2024年度入試結果では入学者の女子比率がプラス5%上昇したと報じられていますので、インパクトとしてはかなり大きかったと言えます。

【河合塾 進学情報サイトKei-Net】2025年度 国公立大入試変更点
https://www.keinet.ne.jp/exam/2025/change/national/index.html

私大入試への影響も大きいが高校の進路指導への影響も大きい

 国公立大学の年内入試が拡大することは、私立大学の学生募集に直接影響します。一般選抜の場合、多くの受験生は国公立大学を目指していても私立大学を併願校として受験します。国公立大学に合格すれば、私立大学に入学手続きをしていても、最終的には私立大学の入学を辞退して国公立大学に入学します。これは従来からのお決まりのパターンです。しかし、総合型選抜・学校推薦型選抜の場合、合格した受験生はその時点で受験終了ですので、私立大学の併願受験自体をしません。私立大学の一般選抜はその分志願者数が減少します。国公立大学で年内入試の募集人員が増えれば、合格者も増えることになりますので、私立大学の一般選抜への影響は年々増すものと言えます。

 ただ、国公立大学の場合は、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)を課す方式があります。その場合、2月上旬に2次試験を行うことが多いため、入試日程が重ならなければ私立大学を併願受験することは有り得ます。では、共通テストを課す方式と免除する方式が実際にどれぐらいの割合なのかを文部科学省の資料で確認すると、実施学部数の集計ですが、総合型選抜も学校推薦型選抜も共通テストを免除する学部数の方が多くなっています<図2>。実施学部数と募集人員規模がほぼ比例していると考えれば、国公立大学の年内での合格者は増えていることになります。国公立大学との併願者が多い私立大学でも自大学の入試日程が、国公立大学の共通テストを課す方式の2次試験と日程が重ならないようこれまで以上に注意する必要も出てきますので、私大入試への影響はかなり広いレベルにわたると考えられます。

 また、受験生の進路指導を行う高校でも、前期日程の次に募集人員規模が大きい入試区分となった国公立大学の年内入試は、対策を講じる対象になります。一般選抜の場合、入試科目が各大学でほぼ揃っていますので、効率的に対応できますが、大学によって、あるいは同じ大学でも学部学科によって、課される書類や課題が異なる総合型選抜・学校推薦型選抜は、これまでも十分に悩ましい課題でしたが、これからさらに悩ましい課題となりそうです。

難関国立大学の総合型選抜がプレ前期日程化しつつある?

 高校現場が、現状でもすでに国公立大学に限らず、総合型選抜・学校推薦型選抜の指導に疲弊していることはよく知られています。また、難関国立大学の場合は、倍率も高く、時に一般選抜よりも高い倍率になることもあります。そのため、大きな大会などで突出した成績を残した生徒でなければ合格が難しいと考える方が多いかも知れませんが、実際には状況が少し異なるように思われます。

 実は難関国立大学の募集要項の出願要件や求める学生像などを見ても、数学・科学オリンピック選抜などの特別な方式を除けば、何らかの実績を出願要件として求めているケースはほとんどありません。それでは結局、何が求められているかと考えると、それは学力だと思います。ここで言う学力とは、共通テストで一定の得点が取れる教科学力に加えて、入学後に学問に取り組むことができる力の2つだと言えると思います。そのため、華々しい実績よりも、むしろ受験する学部学科の学問内容にどれだけ関心を持っているのかの方が重要となります。実際に難関国立大学の入試関係者に話を聞くと、各種コンテストなどでの受賞等の実績を求める声は全く聞かれず(そもそも高校生に画期的な研究成果を期待していない)、共通テストで合格点を取ることと学問への関心度合いが大切だと言います。見方を変えれば、難関国立大学の総合型選抜・学校推薦型選抜は、面接指導が必要にはなりますが、前期日程のための対策がそのまま対策を兼ねているとも考えられます。言わばプレ前期日程です。前期日程に2回の受験機会があると捉え直しても良いのではないでしょうか。

旧AO入試の影響から来る総合型選抜への誤解

 一部で根強く思われている「何らかの実績がないと合格できない」という点については、どうやら旧AO入試時代に作られた誤解があるのかも知れません。かつてのAO入試は、意欲が過度に重視され、そのエビデンスとして実績を問うようなところがあったかも知れません。ちなみに手元にある2017年度入試用の古い文部科学省「大学入学者選抜実施要項」を見ると、アドミッションオフィス入試の説明の中に「知識・技能の修得状況に過度に重点を置いた選抜基準とせず、合否判定に当たっては、入学志願者の能力、適性、意欲、関心等を多面的、総合的に判定する」とあります。この前段の部分が、合否判定では学力に重点を置かない、学力に不安があっても意欲さえあれば評価される、と誤って解釈されたのではないかと思います。

 最新の2025年度入試用の「大学入学者選抜実施要項」では、この部分は「合否判定に当たっては、入学志願者の能力・意欲・適性等を多面的・総合的に評価・判定する」に変わっています。さらに「高度な専門知識等が必要な職業分野に求められる人材養成を目的とする学部・学科等において(中略)、当該職業分野を目指すことに関する入学志願者の意欲・適性等を特に重視した評価・判定に留意する」とあり、意欲は大切としつつも適性(学力)を重視する方向に変わっているように読めます。

 学力のうち教科学力は従来通りの方法で高められます。では、学問への関心はと言えば、やはり総合的な探究の時間が最も有用と言えるのではないでしょうか。探究は入試に役立たないから力を入れても意味がないという意見も聞きます。しかし、学問につながるテーマを探究していれば、それはそのまま難関国立大学の総合型選抜・学校推薦型選抜で求められる学力につながります。東大の学校推薦型選抜では、受験生からは東大教授と真剣な議論ができたことが嬉しかったという話を聞きます。難関国立大学の年内入試には、SDGsや地域創生からさらに踏み込んで、学問に直接つながる探究活動にすればそのまま入試に役立つものになるでしょう。高校は学問の専門的内容の指導はできなくても良いと思います。それを探究するのが生徒の仕事ではないでしょうか。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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