奈良県立医科大学は人工赤血球製剤の製造と第I相臨床試験(「備蓄・緊急投与が可能な人工赤血球製剤の医師主導治験」)の実施を発表した。人工赤血球製剤の投与による輸血困難な危機的出血の克服を目指している。
献血-輸血システムの安全性が高い日本でも、危機的出血にある傷病者に対し輸血製剤が供給困難な状況がある。離島・へき地医療、プレホスピタル、夜間救急、緊急手術の現場や、大規模自然災害、テロリズム、有事などでは、輸血用血液の大量需要と迅速な供給が必要となる。
人工赤血球(ヘモグロビンベシクル、HbV)は精製濃縮Hb溶液をカプセル化した微粒子で、献血後に発生する非使用赤血球(廃棄血)から作製する。感染源を含まず、血液型がない人工赤血球製剤に再生され、長期間備蓄できる。
今回、令和6~8年度の3年間、奈良県立医科大学附属病院で治験薬を製造し、想定する臨床用量800 mLに向けて、100~400 mLまでの投与量と投与速度の増大に対する忍容性※と薬物動態の評価を主目的とした少数の健康成人に対する医師主導第Ib相臨床試験を実施する。
認容性の確認後に第Ⅱ相臨床試験に進み、有効性と安全性を確認する。へき地・離島での消化器系出血による貧血患者の対応やプレホスピタルの危機的出血を想定し、ドクターカー・ドクターヘリへの搭載などの試験プロトコルが提案されている。
本製剤は、将来的に献血-輸血システムが不十分な諸国への技術導入や、移植用臓器の保存液、酸化体(メト体)によるシアン化物中毒等の解毒剤、獣医領域での輸血代替などの利用が期待されている。実用化されれば医療システム全体が変革され、国民の健康福祉増進に資するとしている。
※(編注)副作用の程度
参考:【奈良県立医科大学】備蓄・緊急投与が可能な人工赤血球製剤の製造および、 第一相臨床試験を奈良県立医科大学附属病院で実施 (PDF)