西アフリカからインドの半乾燥地域に生息するサバクトビバッタ(以下、バッタ)は、しばしば大発生して深刻な農業被害を引き起こす。しかし、発生地が広大な上、長距離飛翔するため、効率的な農薬散布が難しく、バッタの生態に基づく防除技術の開発が求められている。
国際農研とモーリタニア国立サバクトビバッタ防除センターは、産卵中のバッタペアが格好の防除対象となることから、バッタの繁殖戦略についてサハラ砂漠での野外調査を行った。その結果、多くのバッタは夜間にペアで集団産卵していたが、一部のメスは産卵が遅れ、致死的な高温条件(50℃以上)となる日中の地表でも産卵していることがわかった。
サハラ砂漠の日中、ほとんどの動物が日向を避けて活動を停止するにもかかわらず、バッタのペアは、致死温度を超える高温の地表で、産卵中のメスの背中にオスが乗った状態で数時間に及ぶ産卵を続けていた。本研究グループはサーモグラフィカメラを用いてバッタの体温と周辺の地温を測定したところ、産卵中のペアは地温よりも低い体温を保持していることがわかった。
そこで、バッタを固定して日向にさらす実験を行ったところ、シングルのバッタの体温は高温となるが、ペアのバッタは体温を低く保つことがわかった。このことから、ペアのバッタでは、メスの背中に乗っているオスが「日傘」のように機能し、高温状態を避けて産卵できることが示唆された。
防除上の観点では、産卵中のペアはその場に数時間留まるため、農薬散布の効率性を高めることができる。夜間の集団産卵中のペアに加え、日中のペアも防除のターゲットにすることで、必要以上に農薬を使用しない、環境や健康に配慮した防除技術の開発につながることが期待される。