千葉大学の研究グループが、園芸品種の一つである蝋梅(ロウバイ)の種子から新しい作用機構を持つ不斉有機分子触媒を発見した。
有機分子触媒とは、金属元素を含まず、炭素、水素、窒素、酸素などの元素で構成された化合物を指す。有機分子触媒を、医農薬の合成などに重要な光学活性分子を合成するための不斉反応に応用する研究が注目されているが、これまで開発されてきた不斉有機分子触媒は、人工的に設計・合成されたものが中心である。
千葉大学薬学部では、1960年ごろから植物由来天然物を収集し、約500種のライブラリーとして蓄積している。今回、天然物のバラエティに富んだ化学構造が新たな触媒機能を生み出すのではないかと考え、天然物ライブラリーから不斉有機触媒を探索した。
その結果、蓬莱葛(ホウライカズラ)に含まれるガルドネリン、下野(シモツケ)に含まれるスピラジンA、蝋梅(ロウバイ)の種子に大量に含有されているカリカンチンの3つの天然有機化合物が、不斉有機触媒として高い触媒活性を有することを見出した。
特に、カリカンチンに化学合成を行い、ヨウ素を導入して人工的に合成した触媒は、触媒活性が大きく向上することも見出した。医薬品や農薬などの化学合成に有用な「マイケル反応」を立体的な特異性(不斉性)を持たせて進行できるとしており、収率も90%と実用的な手法に昇華させることに成功した。これまでに、カリカンチンに類似する構造様式をもつ不斉有機触媒は開発されていないという。
本研究により、自然界に存在する植物由来天然物から新しい構造様式をもつ不斉有機触媒を見つけ出すことに成功した。本研究をきっかけに、医農薬などの化学合成に有用な新しい触媒が天然物の中に存在していることが明らかとなったことで、有機分子触媒分野がさらに発展することが期待される。