大阪大学大学院医学系研究科の西田幸二教授らのグループは、世界で初めてヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)由来の角膜上皮細胞シートを移植する臨床研究を行い、安全性と有効性を確認したことを発表した。
角膜上皮幹細胞疲弊症は、角膜上皮の幹細胞が消失することで角膜が結膜に被覆され、視力障害、失明に至る疾患である。ドナー角膜を用いた角膜移植での治療が行われるが、ドナー不足や拒絶反応といった課題が存在している。
そこで本研究グループは、ヒトiPS細胞から他家角膜上皮細胞シートを作製し、角膜上皮幹細胞疲弊症患者に移植して角膜上皮を再生する治療法の開発を進めてきた。2019年3月から患者4名にFirst-in-Humanの臨床研究を開始し、移植後2年間の観察期間および追跡調査期間の経過観察を行って安全性及び有効性を評価した。
結果、全症例で腫瘍形成や拒絶反応といった有害事象は発生せず、後遺症なく対処することができ、安全性が確認された。また、全症例で角膜上皮幹細胞疲弊症の病期の改善、角膜混濁の減少、矯正視力の向上を認め、有効性を支持する結果を得た。矯正視力は術前と術後1年を比較すると、0.03から0.3に改善(症例1)、0.01から0.15に改善(症例2)、0.15から0.7に改善(症例3)、0.02から0.04に改善(症例4)となった。角膜上皮欠損、自覚症状、QOLアンケートのスコア、角膜新生血管についてもほとんどの症例で改善もしくは不変となった。
以上から、本治療法はドナー不足や拒絶反応などの既存治療法における問題点を克服し、重篤な角膜疾患で失明状態にある患者の視力を回復させる革新的な治療法となりうることが期待される。今後は本治療法の治験につなげ、標準医療に発展させることで、世界中の患者の視力回復に貢献することを目指すとしている。