大阪大学大学院医学系研究科の河合喬文助教とDuke大学医学部のHuanghe Yang准教授らの研究グループは、忌避レベルの高濃度ニコチンにより脳の内側手綱核の神経活動が消失することを発見した。
タバコに含まれる代表的な化学物質であるニコチンに対して、ヒトを含む多くの動物は、低濃度であれば嗜好性を示す一方、高濃度では忌避行動をとることが知られる。この「ニコチン忌避行動」には、多くのニコチン受容体を含む脳領域「内側手綱核」が関係している。これまでの研究で、内側手綱核は忌避レベルのニコチンを感知することでその神経活動を上昇させると考えられてきた。しかし、生体内での直接的な神経活動の計測は行われておらず、その詳細なメカニズムは不明だった。
本研究グループは、生きたマウスの内側手綱核から、忌避レベルのニコチンを投与した際の神経活動を計測したところ、従来考えられていたモデルとは逆に、ニコチンによって内側手綱核の神経活動が消失する現象を観察した。内側手綱核の脳スライスを用いた実験でも、わずか5秒の高濃度ニコチン刺激によって、数十秒から数分にわたる神経活動の消失が引き起こされることを確認した。
このメカニズムとして、2種類のカルシウム活性化イオンチャネルの関与を見出した。Ca²⁺活性化Cl⁻チャネルによって神経活動の抑制が引き起こされる一方、Ca²⁺活性化K⁺チャネルはこの抑制作用を緩和する働きを持つという。このような神経活動の抑制様式は、他の神経細胞では報告がないといい、内側手綱核のニコチン応答に関して従来の常識を覆す新たなメカニズムの存在を見出した成果といえる。
本研究成果は、ニコチン依存症や禁煙治療などにおいて新たな可能性を提供することが期待される。