岡山理科大学恐竜学科の林昭次准教授と、東京大学大学院新領域創成科学研究科の久保麦野准教授を中心とする研究チームは、琉球列島に生息する特別天然記念物「アマミノクロウサギ」が、近縁のウサギ類の約5倍の期間をかけてゆっくりと成長することを初めて明らかにした。
本研究では、アマミノクロウサギの四肢骨に骨組織学的分析(ボーンヒストロジー)を実施した結果、1年に1本形成されるといわれる成長停止線が、ノウサギと比較して非常に多く骨組織中に形成されていることを発見した。日本本土や大陸に生息する一般的なウサギ類が1年以内に成熟するのに対し、アマミノクロウサギは約5年近くかけて成熟する可能性が高いことが判明したとしている。
哺乳類におけるこのような極端な成長遅延は、かつて島に生息していた絶滅した化石種では知られていたが、現生種では世界初の発見である。島という特殊な環境下では、捕食者が少なく餌資源も限られているため、多産多死ではなく「少数の子をじっくり育てる」という傾向が知られており、アマミノクロウサギも非常にゆっくりとした生活史へと進化した可能性が示唆される。一方で、成熟にかかる期間が大幅に長いことで、繁殖数の減少や個体群の維持の難しさにつながり、絶滅リスクを高めているともいえる。
また、骨組織の分析から、アマミノクロウサギの骨構造が、近縁種に比べて非常に緻密で頑丈であることもわかった。これは、急峻な地形を上り下りするなど、島での生活に適応するために進化した特殊な構造であると考えられる。
本研究成果は、琉球列島特有の動物が持つ特殊な生態や進化的特徴の理解を深めるとともに、生態モニタリング調査が困難な希少な動物であっても、骨組織学的手法を用いることで、生活史に関する貴重な知見が得られることを示している。