建学から100年以上の歴史を持つ和洋女子大学。家政学のイメージが強いかもしれないが、実は韓国語学習にも強みを持っていることをご存じだろうか。他に類を見ない独自の教え方や充実した研修などで、初めて韓国語を学ぶ人でも卒業までに一流レベルの語学力を身につけられる。金範洙(キン ボンス)准教授と留学経験のある学生2名に、和洋女子大学で学ぶ韓国語の特徴を伺った。

 

韓国との連携が入学の決め手に

 金先生は東アジア教育コンソーシアムの推進や国際交流の仕事に携わりながら、2006年から和洋女子大学非常勤講師として韓国語や海外文化研修(韓国)などの科目を担当していた。2024年4月からは同大学の専任教員に着任。これをきっかけに、和洋女子大学では韓国語学習に一層力を入れ始めた。

 連携する韓国の大学も年々増えている。従来からの協定校であったソウル大学校家政学部、ソウル市立大学校、ソウル教育大学校に加え、2024年度にはソウルと天安(チョナン)にキャンパスを持つ祥明(サンミョン)大学校とも協定を結んだ。2025年度には韓国中部の公州(コンジュ)大学校も名を連ねる予定だ。

「大学間協定を結ぶメリットのひとつが、留学先の専門授業が履修できて帰国後に和洋女子大学でも単位として認定されること。また、留学中の安全や費用のメリットも大きいです。交換留学の制度を利用する場合、和洋女子大学に学費を納付することで現地での授業料が免除になりますし、教職員の手厚いサポートを受けながら寮も月1万円程度の負担で住めます。」(金先生)

 学生からの関心も高く、韓国留学をめざして和洋女子大学を選んだ人もいる。国際学科4年の中屋さんと加藤さんは、高校時代に韓国ドラマやK-POPなどを好きになり独学で韓国語を勉強。本格的に語学を学んで韓国留学がしたいと思い、和洋女子大学に進学した。実際に2024年2月~12月にソウル教育大学校に交換留学をしている。

「留学先では現地の学生と同じ授業を受けられるので、友だちがたくさんできます。最初のうちは緊張してあまり話せなかったのですが、周りの子が手伝ってくれたり、わかりやすく説明してくれたりして課題や発表も無事に乗り越えられました。」(中屋さん)

「勉強だけでなく、韓国ならではの生活も経験できました。私は韓国のファッションに興味があったので、ほしい服をすぐに買いに行けるソウルの環境も魅力的で。また、韓国はカフェ文化が発展しており、何件もお店をはしごしたのもいい思い出です。」(加藤さん)

日本語話者向けのオリジナル学習法で上達!

 「和洋女子大学の韓国語学習者は、韓国語能力試験(TOPIK)の合格率が高い」と語る金先生。入学後にハングルの読み書きから学び始めた人でも、約18カ月の言語トレーニングを積み重ねれば最高級の6級に合格できるという。

 語学力を高める教授法が、金先生が開発した「BS韓国語学習法」。日本語と韓国語の共通点に注目した独自の教え方だ。韓国語の標準語(いわゆる「ソウル語」)を外国語ではなく、「東京語」にとっての「鹿児島弁」のような、地域差のある言語として位置づけ、その運用方法を学んでいく。授業では、日韓言語の構造や文法を対照的に理解し、漢字語の切り替え練習、大きな声を出しての文章の暗唱や通訳トレーニングを何度でもくり返す。この方法は日本語話者を相手にしているからこそできるという。

 

和洋女子大学の韓国語授業(上級韓国語)

「私は日本文学が好きで、韓国の外国語大学で日本語を専攻し、日本に留学しました。学業のかたわら、通訳や韓国語教育に携わるなかで、日本語と韓国語の類似点に着目し、より効率的な学習方法を模索したことが、BS韓国語学習法の原点となります。たとえば日本語の動詞の活用は「飲む、食べる、行く、する、遊ぶ」にひととおり入っています。偶然の一致なのか、これらの5単語に相当する韓国語にも不規則変化を含む動詞活用のパターンがほぼ含まれています。つまり、日韓の基本動詞の活用を対照的に覚えれば、ほかの表現にすぐ応用できるのです。語尾に「~か」を付ければ疑問形になるなど、日本語との共通点を意識して感覚的に覚えると、韓国語により親しみやすくなります。」(金先生)

「これまで体験したことがない独特な教え方でした。驚きましたが、わかりやすかったです。」(中屋さん)

 授業で学んだ成果を実践する機会も用意されている。夏休み中に実施する共通総合科目の一つである「海外文化研修(韓国)」がそれだ。公州大学校で行われる本研修は、金先生が現地の韓国語授業のカリキュラムを編成し、引率と指導も担当している。2025年は10日間の日程で、定員は前年の30名から50名に増員した。韓国語のレベルアップを目的に毎年参加する学生も多い人気のプログラムだ。

「研修では、TOPIK3級から6級に対応した韓国語の集中授業を受けながら、専用バスをチャーターして、韓国の首都圏や忠清道一帯を広くフィールドワークします。ユネスコ世界文化遺産を巡ったり、地域の名物グルメを堪能したり、盛りだくさんの内容が魅力です。このプログラムは2009年の開始以来、コロナ禍による2年間の中断を除き、毎年実施されています。そのため、公州の地元の方々からは「夏の風物詩」と呼ばれるほど、恒例の行事として親しまれるようになりました。」(金先生)

「私も短期研修に参加したことがあり、韓国語を勉強しつつ、さまざまな場所を見ることができ、いい経験になりました。公州大学校はソウルから離れた場所にあり、個人旅行ではなかなか行けないところに足を運べるのも魅力的です。」(加藤さん)

 2回目以降に参加する学生は、通訳などの研修を受けながらプログラムの運営にも携わる。活動に応じて参加費が減額されるため、何度も参加して実践経験を積みやすい。

「研修プログラムのリピーターは、運営スタッフとして国際ボランティアの経験が積めますし、キャリアにもつながるため好評です。1年次から卒業まで毎回参加して韓国語の運用能力を高めるケースも珍しくありません。その甲斐もあって、本学の国際学部を含めて他学科の参加者からも韓国語検定の上級合格者が毎年出ていますし、大学全体の韓国語教育の面でも、確かな成果につながっています。」(金先生)
韓国教育現場研修―忠南サムスン高等学校―

 2025年2月には、韓国の四つの交流大学から21名の学生を和洋女子大学に招き、1週間の「日本文化研修プログラム」を行った。応募者が多く、倍率が3倍になったところもあったそうだ。和洋女子大学生も通訳などで参加し、韓国学生の研修をサポートした。「日韓の学生が交流する機会を今後も増やしていきたい」と、金先生は意欲を見せている。

韓国で活躍する卒業生も増加の傾向

 和洋女子大学で語学力や国際経験を積んだ卒業生は、国内外で活躍している。企業や教育職、空港・航空関係の仕事やホテル業界など、進路はさまざまだ。韓国語能力や留学経験を生かして日韓を跨って活躍する人もいる。

「みなさんの海外経験と積極性、そして真面目さを高く買われており、就職実績はかなりいいです。最近の傾向としては、航空・ホテル業界や韓国系の企業に就職する人が増えています。韓国の大学院に進学し、現地の大学で日本語講師の経験を積み、日本でも有名な韓国のエンターテインメント企業の翻訳コーディネーターを務める人もいます。」(金先生)

「今は韓国の大学院進学をめざして準備を進めています。留学前は大学院に進もうとはまったく考えていなかったのですが、帰国後に『もっと韓国で勉強したい』という欲が出ました。韓国語の実力をもっと高めたいですし、大学では勉強できなかった専門分野を韓国の大学院で学ぶのがとても楽しみです。」(加藤さん)

 韓国関連の求人情報提供や模擬面接、OGとのキャリアトークなど、進路支援も充実している。在学中だけでなく、卒業後のキャリアも見据えた韓国語学習こそが、和洋女子大学の魅力といえるだろう。

「和洋女子大学で、日本一の韓国語専門家を育てることが私の目標です。初学者であっても、語学のプロとして活躍できるレベルの日韓両言語の運用能力を、在学中に身につけられるよう指導します。みなさんの夢や目標を実現できるよう、これからも全力でサポートしていきます。」(金先生)

和洋女子大学 国際学部国際学科

金 範洙 准教授

韓国外国語大学校日本語科卒業。早稲田大学大学院文学研究科(科目等履修生)。横浜国立大学大学院教育学研究科(修士)。東京学芸大学連合大学院(博士・学術)。韓国語教育のほか、日韓言語の同時通訳・法廷通訳、グローバル産学連携や国際教育プロジェクトの推進など豊富な国際実務経験を持つ。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

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