日本列島に生息する特別天然記念物ニホンカモシカの遺伝系統が6つの主要なグループに分類できることがわかった。麻布大学の田中和明教授、長友明衣さんと大内力さん(研究当時学部学生)、南正人特命教授が、東京農業大学および群馬県立自然史博物館と共同で明らかにした。
日本固有種であるニホンカモシカの現在の生息地は、九州、四国、本州の山地から亜高山帯に飛び地状に点在している。これは、かつて低地にも分布していた個体群が、温暖化の進行により山地へと分断・縮小されたためと考えられており、結果として現在のニホンカモシカは地理的に孤立した遺存種となった。
研究チームは、群馬県立自然史博物館に保管されていた標本を活用し、ニホンカモシカのミトコンドリアDNAに関する詳細な集団遺伝解析を行った。ミトコンドリアDNAは、母親からのみ子へと遺伝情報が伝達される(母系遺伝)という特徴を持つことから、日本列島に生息するニホンカモシカの母系統が、地域的な特徴を持つ6つの遺伝グループ(グループ1:東北地方、グループ2:中部地方、グループ3:紀伊半島・九州・中部地方、グループ4:赤城山周囲、グループ5:中部・関東地方、グループ6:四国地方)に分類されることがわかった。
群馬県内では、そのうち3つの母系統グループが検出された。群馬県北西部の吾妻地域のニホンカモシカは、グループ5のみが確認された。このことから、吾妻地域のニホンカモシカは遺伝的多様性が低く、近年急激に個体数が増加した可能性が示唆された。
一方、群馬県北部の利根沼田地域にはグループ1、4、5のニホンカモシカが混在していた。尾瀬周辺には東北地方の特徴を持つ母系統が分布し、赤城山周辺には他の地域とは異なる母系統が存在するという。このように、利根川を境に、群馬県内でも遺伝的構造に明確な違いが存在することがわかった。
本研究により、これまで十分に解明されていなかったニホンカモシカの地域ごとの遺伝的な特徴が明らかとなった。
※サムネイルの画像については、「Zoological Science (日本動物学会)第42巻 第2号 表紙」より