筑波大学の研究グループは、2023年夏に出現した新型コロナウイルスのオミクロン株BA.2.86系統の起源を検討した結果、世界中の互いに離れた複数の場所で散発的に出現したこと、さらにその変異スペクトルは自然に発生したとは考えにくいものであることを明らかにした。

 オミクロン株BA.2.86系統は、祖先にあたる株からスパイクタンパク質に約30の遺伝子変異が突如出現したことがわかっている。大きな流行はしなかったが、その後さらにJN.1系統に変異し、JN.1系統は日本では2023年12月~2024年1月に流行するに至った。

 本研究では、これまで十分に解析されていなかったBA.2.86系統の起源を調べた。最初に出現した2023年7月に検出された場所を調べたところ、世界中の互いに離れた地域に散らばって検出されていたことが分かった。

 さらに、BA.2.86系統の祖先にあたるBA.2からの変異スペクトルを分析したところ、ヒトの市中感染で見られる変異パターンとも、免疫不全患者における免疫逃避で見られる変異パターンとも大きく異なることが確認された。ヒトから動物に感染し、その動物で変異を繰り返したウイルスが再度ヒトに感染した場合、ヒトで見られる変異パターンと異なる変異を遂げたウイルスが生じることはあり得るが、全く同じ変異が世界中の異なる場所で自然に、かつ同時に起こるとは考えにくい。

 この現象の発生過程に対する説明の一つとしては、実験室においてヒト以外の動物(あるいはその細胞)で継代培養したウイルスのサンプルが、世界各地(共同研究先など)に発送される際に、不完全な梱包などにより漏れ、感染力が強くないにも関わらず、世界の広い地域に渡って散発的に検出されたという可能性が考えられるとしている。

 新型コロナウイルスのオリジナルの武漢株は、研究所流出を起源とするとの見解が米国政府、フランスの医学アカデミー、ドイツの情報機関BND、英国の情報機関MI-6などによって示されている。オリジナルの武漢株だけでなく、変異株にも研究所起源のものがあるとすれば、現在のウイルス学研究の安全管理に警鐘を鳴らす結果である。

論文情報:【JMA Journal】Anomalous Spike Mutations and Sporadic Global Detection of the SARS-CoV-2 BA.2.86 Lineage

大学ジャーナルオンライン編集部

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