一昨年・昨年度と2年連続で開催した「秋田県高校生探究発表会(以下、探究発表会)」について、企画内容に加えて、企画意図や成果・課題を紹介します。「課題研究」に代表される高校の探究活動について知ってもらう一助となればと思います。

 

探究発表会の開催背景

 「総合的な探究の時間」のスタートに伴い、文系や理系を問わず、全ての生徒は探究的な活動を通じた成果や学びを3年間蓄積することになりました。

 ひと昔前までは、実業科や科学部、理系のクラスなどで実施される研究活動を「課題研究」と呼び、「探究活動」は理系がメインのイメージを持たれていたと思います。これを、全生徒を対象に実施するというのは大きな変化であったと言えます。スーパーサイエンスハイスクールに指定されている筆者の所属校でも(第Ⅰ期:平成25~29年度、第Ⅱ期:平成30~令和4年度、第Ⅲ期:令和5年度~)、第Ⅰ期では理系と躍進探究部(いわゆる科学部)に限定されていた課題研究を、第Ⅱ期には全生徒を対象に探究活動として実施するようになりました。

 これらの変化から数年が経過し、以下の課題が浮き彫りになってきました。
・文系の探究活動の成果発表の場が不十分
・文系の探究活動の指導ノウハウが不足
・文理問わず探究活動の指導経験について、情報共有の場が不足

以下、この3点についてさらに詳しく分析してみます。

文系の探究活動の成果発表の場が不十分

 秋田県では、複数の高校がエントリーする自然科学系の成果発表の場は、学科やSSHの指定の有無などにもよりますが、年間に3~4種類存在します。そのため、学校としては、例えば、「今年度は、この3件は発表会Aで、こちらの2件は発表会Bで、あの4件は発表会Cで発表させよう」など、より多くの生徒に発表を経験させることができます。一方で、文系の探究活動の発表機会は、学校内の発表会か全国規模の大会に限定され、より身近な秋田県内での発表の機会は皆無でした。すなわち、文系の探究活動は、学校内という閉じられた環境で実施されるケースがほとんどであったのが実態と言えます。

文系の探究活動の指導ノウハウが不足

 教科書会社からは「課題研究」や「探究活動」の進め方に関する出版物が発行されていますが、高校の理科教員のほとんどは卒業論文研究や修士論文研究を経験しており、これらの経験をベースとした指導が実践されているという印象を受けます(教科書を使用しないという意味ではありません)。一方で、文系の探究活動の指導に焦点を当てると、指導に当たる教員から「研究経験がない」という声が多く聞かれ、テーマ設定、仮説の導き方、仮説の検証方法に苦慮しているケースが散見されます。筆者は博士号教員派遣事業の一環で、秋田県内の高校に招かれて講演を行う機会がありますが、ここ数年、地域課題の解決をテーマとした「探究活動の進め方」についての依頼が急増しています。この傾向も、文系の探究活動の指導に対する不安の表れとも考えられます。

文理問わず探究活動の指導経験について、情報共有の場が不足

 前述した2つの課題については、筆者の経験や、県内の博士号教員との情報交換で得た情報をもとに記述したものです。したがって、探究活動について客観的かつ網羅的に状況を把握した上での分析とは言えないかもしれません。しかし、秋田県に限った話かもしれませんが、これこそが最後の課題として指摘したい部分です。探究活動の指導ノウハウやカリキュラムとしての探究活動のマネジメントなど、教員間・学校間での成果と課題の情報共有が十分とは言えない状況なのです。

 このような課題意識を持っていた中、Classi株式会社から、「関西学院大学高等部と開催している「中・高生 探究の集い」のような発表会を秋田県でも開催できないか?」と打診されました。生徒と指導教員が理系分野に限定せずに「探究活動」をテーマに集う場は、上記課題をクリアする一歩となると考え快諾しました。

探究発表会とその成果

 この探究発表会は、これまでに2023年度と2024年度の2回、開催しています。各年度とも、Classi株式会社と上記の課題意識を共有しつつ、1つひとつクリアできるよう議論を重ねて企画を進めました。実施概要は以下の通りです。

 発表分野については、一貫して「不問」としました。これは、特に文系分野の発表機会を創出することを意図したためです。2024年度の内訳は、文系分野と理系分野が、それぞれ23件と11件でした。文系の探究活動の成果発表の場として、一定の成果を果たしていると考えます。

 主催者と参加者のコミュニケーションについては、コンテスト形式をやめて、「論理展開の妥当性」の視点からフィードバックを行う形式へと転換しました。博士号教員などからのフィードバックには、生徒だけでなく、その探究活動を指導した教員へのメッセージも込められています。参加生徒に行った事後アンケートでは、「他校との交流・フィードバックが刺激になった」という声や、他校の探究活動の質の高さ、また自己成長への言及がみられました。

 参加者同士のコミュニケーションの場をと、基調講演に代わり、生徒及び教員の交流会を設定しました。このうち教員交流会では、探究活動の指導教員や分掌としての担当者、博士号教員、主催者である筆者らも参加しました。各校の探究活動について基本情報を紹介してもらい(カリキュラム、教員あたりの指導件数、個人探究かグループ探究かなど)、抱えている課題やその課題の解決方策を共有しました。交流会で出た悩みの多くは「テーマ設定」に関するものでしたが、Classi株式会社から全国での取り組み事例や生成AIの利用事例が紹介され、博士号教員からはテーマ設定の時期について助言もありました。これまでは職員の異動等でしか知りえなかった、他校の取り組み手法や成果、課題を共有できた意義は大きいと考えています。
2025年度の探究発表会の様子

大学に期待すること

 一教員としても所属校としても、秋田県の探究発表会の企画を通じて、Classi株式会社と協業した経験は大きな成果と言えます。中でも特に印象的だったのが、「中・高生 探究究の集い(兵庫県、主催:関西学院高等部・Classi株式会社)」に招待された際に実感した、大学の役割の大きさです。それは、大学側が単に専門的な助言や講評を行うだけでなく、「探究活動」を通して生徒に習得してほしい資質・能力を参加者に向けて発信するということです。「中・高生 探究の集い」では、将来にわたる探究的な営みに必要となる資質・能力について実感してもらえるように、大学の教員が生徒や教員向けの企画に関与する姿を目の当たりにしました。また、「令和6年度 東北地区SSH指定校発表会」の生徒向けワークショップの企画・運営に、東北大学が参画していたことにも同様の意義を感じました。

 このような、高校生の探究活動の成果発表会の場と大学の関わり合いは、大学側にとっては高校の探究活動の実情を把握する機会となりますし、高校側にとっては大学が(ひいては社会が)求めている資質・能力を直接知る機会になります。入試制度が変容していくことを鑑みても、一定の意味があるのではないでしょうか。

秋田県立秋田中央高校 教諭博士(生物資源科学)

東海林 拓郎さん

秋田県立大学生物資源科学部卒業。秋田県立大学大学院生物資源科学研究科博士課程前期・後期修了 博士(生物資源科学)取得。NPO法人環境あきた県民フォーラム、一般社団法人あきた地球環境会議を経て、2016年より秋田県の博士号教員。2023年より、秋田県立秋田中央高等学校に勤務。専門は、土壌環境学。北海道立札幌月寒高等学校出身。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

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