中部大学の岩田悟助教と岩本隆司教授らの研究チームは、愛知県医療療育総合センターと共同で、細胞への損傷が極めて低い染色体逆位のゲノム編集実験に世界で初めて成功した。
近年、新薬の効果確認などに用いる遺伝子改変マウスの作製が以前より容易になった。しかし染色体逆位(染色体の部分的逆転)などの大規模なゲノム改変は、年単位のトレーニングと高価な設備を要し、熟練者でもゲノム編集用の試薬導入に3時間程度かかる顕微注入(マイクロインジェクション)法が使用されている。
そこで研究チームは、装置が比較的安価で、トレーニングは1~2か月、作業も約15分で済む電気穿孔(エレクトロポレーション)法で染色体逆位マウスの作製を試みた。同法は細胞に電気パルスを与え、一時的に生じる隙間を通して受精卵内にゲノム編集試薬を導入できる。細胞の隙間は自然に閉じて損傷が少なく、受精卵の生存率向上が期待された。
体外受精で作製したマウス受精卵に同法を適用した結果、出産したマウスで塩基対の逆位領域が従来報告の1.5倍となった。染色体疾患マウスの作製には長い染色体改変が必要で、改変領域が長いほど多種類の疾患モデルを作成できる。さらに採卵と移植が不要なマウス生体内の自然受精卵に対し、同法を応用して卵管ごとゲノム編集すると、従来と同程度の逆位領域を持つマウスを出産。これによりマウス受精卵での染色体レベルの長い遺伝子領域の改変にも有効性が示された。
同法は研究予算が限られる小規模研究室や学部生でも簡便に利用できるため、染色体改変研究が世界的に進展するとみられる。今後、ヒト染色体疾患の発症メカニズムの解明や診断・治療法開発の加速化が期待される。