東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科の平田哲也医師、女性外科の大須賀穣教授らは、子宮移植、代理懐胎、養子縁組に対する国内の意識調査を行った。
晩婚化に伴い不妊に直面する夫婦が増加し、2016年の調査によると、日本国内でも18人に1人が体外受精で生まれている。また、ロキタンスキー症候群などで先天的に子宮を持たない女性が子どもを望む場合の選択肢のひとつである「代理懐胎」は、技術的には可能となったが、多くの倫理的、社会的問題のために日本で実施されていない。
一方、海外では第三者の子宮を手術により移植する「子宮移植」が研究段階にある。2014年にスウェーデンで生体ドナーから、2019年にブラジルで脳死ドナーから子宮移植で出産に成功したという報告がされており、世界で既に10名以上の子どもが生まれている。日本でも、臨床研究に向けた指針が策定されたことから、今後、子宮移植を臨床研究として行われる可能性があるが、やはり安全性の問題、倫理的、社会的問題を内包している。
子宮移植に関しては、以前に20代30代の女性を対象とした意識調査で、40%以上が肯定的であったとの報告例があるが、今回、ドナーとなる可能性のある40代以上の女性や男性の意見も反映するべく子宮移植に対する意識調査を20歳~59歳の男女1600人を対象に実施した。
調査の結果、全体で 36.5%、31.0%の人が子宮移植、代理懐胎を社会的に「認めてよい」と考え、17.0%、19.9%の人が「認めるべきでない」と回答し、肯定的な意見が否定的な意見を上回った。それぞれの理由で最も多かったのが、肯定派は「子宮移植が子宮性不妊の患者にとっての希望になること」、否定派は「子宮移植のための手術のリスクが高い」だった。回答は性別、年齢、不妊経験の有無、子宮移植に対する知識の程度に影響を受けていることもわかっており、子宮移植の知識のレベルが高いと子宮移植に対する肯定的意見は増え、同時に、否定的な意見は女性では変化がないが、男性では増えた。
一方で、ほとんどすべての質問において30%以上が「わからない」と回答している。より広く社会的合意を得るためには、子宮移植についての知識提供と議論の発展が望まれる。また、代理懐胎に関しても子宮移植とともに同時に議論していく必要性が示唆された。今回の調査が今後の子宮移植に関する課題に向き合う早期のルールづくりにつながるものと期待される。
参考:【東京大学】子宮移植、代理懐胎、養子縁組に対する国内の意識調査について(PDF)
論文情報:【PLOS ONE】A survey of public attitudes toward uterus transplantation, surrogacy,and adoption in Japan