宇宙空間には超高エネルギーの荷電粒子(宇宙線)が飛び回っており、絶えず地球に降り注いでいる。宇宙線の起源は長年の謎とされ、その加速メカニズムに関してさまざまな研究が続けられているが、全体像はわかっていない。
宇宙線の中でも比較的低エネルギーの成分は銀河宇宙線と呼ばれ、我々の銀河内の超新星爆発によって生じる衝撃波(超新星残骸衝撃波)が起源ではないかと考えられている。宇宙線は陽子などの原子核および電子から構成されるが、特に宇宙線電子の衝撃波における加速のメカニズムには、フェルミ加速と呼ばれる標準モデルが存在する。初期に光の速さと同程度の速度をもった宇宙線の「種」となる電子があれば、加速を自然に説明できるというものだが、その「種」が一体どのように作られるのかは謎だった。
東京大学大学院理学系研究科の天野孝伸准教授らのグループは、この言わば宇宙線電子加速の「はじめの一歩」の問題に挑み、人工衛星が観測した地球近傍の衝撃波のデータを解析することで、この問題の解決に大きく迫ることに成功した。本グループは最近、これまで無視されてきたミクロな衝撃波の動力学を考慮した新しい電子加速の理論モデルを提唱しており、観測データによってこの新モデルの正しさを実証したという。そして、このモデルを超新星残骸衝撃波に適用すると、電子を光の速さ程度まで加速することができ、宇宙線の「種」となる粒子の生成を理論的に説明できることがわかった。
このようにして宇宙線加速の「はじめの一歩」のメカニズムが明らかになったことで、今後は宇宙線の「種」の量、ひいては宇宙線の総量を見積もる研究ができるようになるという。将来的には、電子だけでなく陽子なども含めた宇宙線加速の全体像の理解が進展することが期待される。