慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息は、風邪コロナウイルスに感染すると症状が悪化することがある。風邪コロナウイルスは、新型コロナウイルスや病原性の高いSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスとは異なる、風邪の症状を引き起こす病原性の低いウイルスだが、症状悪化が重篤となると、最悪の場合、呼吸不全で死亡することもあるという。
編集部注:この研究で使用した風邪コロナウイルスは新型コロナウイルスとは異なります。
ウイルス感染時の慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の悪化予防には、一般に気管支拡張薬や吸入ステロイド薬などの呼吸器疾患吸入薬が使用される。今回、東北大学の山谷睦雄教授らのグループは、風邪コロナウイルス感染時におけるこれらの疾患の悪化予防に呼吸器疾患吸入薬が貢献する仕組みを明らかにした。
研究グループは、ヒト由来の呼吸器の培養気道上皮細胞に風邪コロナウイルスを感染させ、呼吸器疾患吸入薬がウイルスの増殖に与える効果を調べたという。その結果、気管支拡張薬を添加すると細胞表面のウイルス粒子受容体が減少してウイルスの吸着が抑えられ、さらに、ウイルスが取り込まれる構造体である酸性エンドソームが減少することがわかった。受容体および酸性エンドソームが減少することにより、風邪コロナウイルスの増殖が抑制され、ウイルスの放出量も減少すると考えられた。また、呼吸器疾患吸入薬は、慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息を悪化させる炎症を誘導する物質の放出を抑えることも判明し、これらの効果で、呼吸器疾患吸入薬が風邪コロナウイルス感染時における慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の悪化に対する予防に貢献していることが明らかとなった。
本成果は、日本呼吸器学会の英文誌『Respiratory Investigation』の電子版で発表されている。