京都大学大学院情報学研究科の石井信教授らのグループが、国際電気通信基礎技術研究所との共同研究で、迷路ゲームに取り組んだ際の脳活動から、次に見えてくるシーンの予測を読み取ることに成功しました。
核磁気共鳴画像で脳活動を読み取れることを確認した画期的な発見で、脳内メカニズムの解明に貢献するとともに、脳活動を利用した新たなコミュニケーションツールの開発につながることが期待されています。研究成果は英国の科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」(電子版)に掲載されました。
京都大学によると、実験参加者に核磁気共鳴画像装置の中で空間移動を伴うゲームに取り組んでもらい、脳の活動を計測しました。その結果、脳の前方にある前頭葉内側部と頭頂にある上頭頂小葉で次に見えてくるシーンを予測していることが分かりました。
これらの領域では、実験参加者の予測が間違っていたとき、迷路構造と合致した正解のシーンではなく、間違ったシーンに対応した脳活動のパターンを示しました。これは客観的事実ではない主観的な思い込みを読み取れたことを示したものとしています。
さらに、脳活動から読み取った予測を迷路上に配置していくことで、実験参加者が記憶している地図を復元しました。復元された地図は、実験に用いた3種類の地図すべてで7割以上が同じ構造となっていました。シーン予測の正答率が高い実験参加者ほど実際の地図に近いものを読み取っていたわけで、シーン予測の巧みさは脳の活動パターンの違いで説明できるという結論に達しました。
人間は目的地まで移動しようとする際、次に現れるシーンを予測しながら進むなど、行動決定に予測が重要な役割を果たしています。これまでの研究で人間がどちらの方向に移動しようとしているかは、海馬の活動で表されることが知られていますが、まだ見えていない次のシーンの予測についてはよく分かっていませんでした。
そこで、石井教授らのグループは、予測を担う脳の領域が予測するシーンによって異なる活動パターンを示すと仮定し、空間の認知に重要と考えられてきた脳領域を対象に、予測シーンによって活動パターンに違いがあるかどうかを調べました。
石井教授らのグループは「この研究では壁と通路しかないシンプルな迷路を使った。より複雑な構造の迷路を使用することで多様な情報を脳活動から読み取る技術の足がかりとなるだろう」と期待しています。