東京大学の井原泰雄講師らの研究グループは、国立民族学博物館、国立科学博物館と共同で、更新世の人類による島しょ進出について分析し、偶然の漂流により10人程度のグループが島に渡ったとすれば、その子孫が集団として持続した可能性があることを示した。
後期更新世の人類は海を渡り、日本の琉球列島のような島々に進出した。意図的な移住だったとすれば、当時の優れた航海技術がうかがえるが、偶然の漂流とすれば、その子孫の人口維持には何人の漂着者が必要だったのか、長年議論が続いてきた。
今回、移住者の子孫が集団として持続する可能性を人口シミュレーションにより評価した。近現代の狩猟採集民は家族単位で移動するため、家族が乗った舟の偶然の漂流を、男女同数の若者による意図的な移住と比較した。狩猟採集民として現実的な出生率と死亡率の組合せを網羅的に検討すると、偶然の漂流の場合は、集団の持続可能性が意図的移住より大きく劣り、集団の持続に多くの条件下で10人程度の漂着者が必要と判明した。
例えば琉球列島は、3万5000~3万年前に列島全域にホモ・サピエンスが出現したが、島が小さく離れており、黒潮を含む複雑で強い海流もあった。そのため持続可能な人数の漂着は難しく、今回の成果より、琉球列島への人類の進出は意図的な移住とみられる。一方、100万年前頃のインドネシアでは、原人が狭い海峡を数回越えてフローレス島へ渡っている。この海域の島は大きく、津波などで偶然流された男女10人ほどの同時漂着は可能と思われる。
井原講師は、危険を承知で海に出るからには何か強い動機があったとし、それが人類の世界拡散の原動力になった可能性を指摘している。