東京大学大学院工学系研究科のグループは、ホウ素(石の成分)を触媒に用いることで、一酸化炭素をつないで炭化水素鎖(石油の成分)をつくる反応が室温で進行することを発見した。

 この反応は、人造石油合成にも利用されているFT法(フィッシャー・トロプシュ法)の鍵段階であることにその意義がある。FT法は、一酸化炭素と水素の混合物である合成ガスから炭化水素鎖を作る反応で、石油代替となる合成油を作る過程として知られている。合成ガスは一般に、石炭または天然ガスと水を原料として作られているが、二酸化炭素と水素からも得ることができるため、二酸化炭素から人造石油をつくるキーテクノロジーとしてFT法は注目を集めている。

 しかし欠点として、FT法は鉄やコバルトなどの重金属を触媒とし、高温・高圧の反応条件(最低でも200℃以上)を必要とするために、エネルギーの消費が多い。より効率的なFT法の開発が望まれる中、本研究では、重金属を一切使わず、代わりにホウ素の化合物を組み合わせることで、FT法の鍵反応である炭素鎖の伸長が室温下で進行することを見出した。

 現状ではFT法触媒の完全な代替にはならないというが、水素とホウ素の結合をもつ物質を共存させることで、炭素とホウ素の結合に一酸化炭素が連続して挿入し、炭化水素鎖になることを見出した本成果は、これまでとは異なる新しい触媒設計の方向性を示すもの。

 今後、二酸化炭素から石油を作る持続可能なプロセス開発に向けて、研究が加速することが期待される。

論文情報:【Journal of the American Chemical Society】Heavy Metal-Free Fischer-Tropsch Type Reaction: SequentialHomologation of Alkylborane Using a Combination of CO and Hydrides as Methylene Source

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。