理化学研究所、米国シンシナティ小児病院、京都大学の研究グループは、気管発生のプロセスを明らかにし、マウスおよびヒトES細胞から気管組織を作製する技術の開発に成功した。
呼吸に必須の臓器である気管が形成されるためには、軟骨や平滑筋を生み出す間充織の正常な発生が極めて重要だ。これまで、間充織の分化には上皮組織のNkx2.1遺伝子の発現が必要であると考えられていたが、本研究ではまず、Nkx2.1を欠損させたマウスにおいても、気管間充織のマーカーであるTbx4遺伝子の発現が認められることを発見。代わりに、気管間充織の発生には、さまざまな遺伝子の発現を制御しているとされるWntシグナルが上皮組織で活性化することが必要であることを見出した。
また、上皮のWntシグナル活性化に続いて、間充織のWntシグナルが活性化することも、Tbx4遺伝子の発現と間充織への分化に必要なことを発見。はじめに間充織で分泌されるWntリガンドが上皮のWntシグナルを活性し、次に上皮で分泌されるWntリガンドが間充織のWntシグナルを活性する下流で、Tbx4遺伝子が発現し間充織の発生が誘導されるという。このような上皮と間充織の双方向のWntシグナルが気管発生の起源であることが明らかになった。
本グループはさらに、この知見を培養技術の開発に応用することで、培養皿上でマウスおよびヒトES細胞から気管間充織の複合組織を誘導することに成功した。開発された誘導培養技術は、臓器を模倣した人工ミニ臓器「オルガノイド」開発の手がかりともなるため、今後、人工的な呼吸器の形成技術への応用が期待できるという。また、間充織の形成異常は、先天性の呼吸器疾患の原因となるることから、間充織の形成機構を解明した本成果は、これらの病態の解明につながることも期待できる。