東京大学大学院理学系研究科の野崎久義准教授らの国際研究グループは、単細胞が多細胞へと進化する初期の段階で鍵となる遺伝子群は、がん抑制遺伝子であることを発見したと発表した。これは、多細胞生物の緑藻である群体性ボルボックス目のうち原始的な多細胞であるゴニウム(学名Gonium pectorale)の全ゲノム解読により明らかとなったという。本研究は国立遺伝学研究所、アリゾナ大学、カンザス大学等とともに行われた。
ヒトは複数の細胞からなる複雑な多細胞生物であるが、太古の昔はひとつの細胞からなる単細胞生物であり、「多細胞化」により誕生したとされる。単細胞生物から多細胞生物への転換は、さまざまな真核生物で起きたと推測されているが、その初期段階の原因遺伝子に関しては謎に包まれていた。
今回、国際研究グループは、ゴニウムの全ゲノムデータを単細胞クラミドモナスと細胞の役割分担が進んだ多細胞ボルボックスのものと比較解析した。その結果、細胞の周期を調節する遺伝子(RB遺伝子)が多細胞化の原因であり、これはヒトでは眼球内の悪性腫瘍である網膜芽細胞腫のがん抑制遺伝子であることが明らかとなった。また、多細胞化の初期においては細胞周期調節遺伝子群の進化が起き、その後に細胞の役割分担の遺伝子群が進化すると推測されるという。
今後、最も初期に出現した最小多細胞生物シアワセモやより進化段階が高くボルボックスに近い群体性ボルボックス目の生物の全ゲノム情報が明らかになり、単細胞生物から複雑な多細胞生物への進化の過程が遺伝子レベルで解明されることが期待されるとしている。