東京大学の中内啓光特任教授らの研究グループは、哺乳類受精卵へのウイルス感染を利用して、ゲノム編集により簡便に遺伝子組み換えを行う手法を開発した。特殊な技術なしで、遺伝子改変動物の作成や複雑な遺伝子疾患の治療が可能となることが期待される。

 ゲノム編集技術による遺伝子挿入は、遺伝子改変動物を用いた基礎研究の基盤であり、遺伝子疾患の治療にも有用な技術だ。近年の技術的進歩は、ゲノム編集技術の受精卵段階での適用を可能としたが、遺伝子破壊と異なり遺伝子挿入には高度な手技を要し、導入できる遺伝子の長さにも制限があった。高効率で簡便な細胞内への遺伝子導入法として、ウイルスベクターを用いた方法があるが、一般的な細胞と異なり、哺乳類受精卵は透明帯(子宮着床前の受精卵を取り囲む糖タンパクの膜)に保護されているため適用は困難とされてきた。

 研究グループは、一本鎖DNAウイルスである「アデノ随伴ウイルス」が一般的なウイルスベクターと異なり、さまざまな哺乳類受精卵に対し、透明帯を通過して感染しうることを発見した。この特性を利用して、高電圧により細胞膜に穴を開ける電気穿孔法による遺伝子改変技術「CRISPR/Cas9ゲノム編集」に、アデノ随伴ウイルスベクターによるドナーDNAの導入を組み合わせることで、特殊な機材・技術を用いることなく、受精卵段階で長鎖外来遺伝子をノックインする事に成功した。さらに同手法を用いて、免疫不全モデル動物であるヌードマウスの遺伝子治療にも成功した。

 今回の手法は広範な哺乳類に適用可能と考えられ、生物学・医学研究において基盤的な技術となりうるとともに、遺伝子疾患をもつ家畜等において遺伝子治療を可能とすると期待される。

論文情報:【iScience】Intra-embryo gene cassette knock-in by CRISPR/Cas9-mediated genome editing with adeno-associated viral vector

大学ジャーナルオンライン編集部

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