株式会社超越化研、高エネルギー加速器研究機構、および東京大学の研究者らが、紙素材にシリカコーティングを施すことでプラスチックのように使えるようになる新規なコーティング技術を開発した。
2015年に世界で生産されたプラスチックは63億トンに達し、そのうち79%は自然環境に流出したという報告があるように、多量のプラスチックゴミによる環境破壊は深刻な社会問題だ。プラスチックは化学的に安定で優れた機械的特性を有する反面、自然に分解されにくいことから、プラスチックに代わる生分解性材料の開発が求められているものの、安価で使いやすいプラスチックを置き換えることは容易ではない。
こうした中、本研究者らは、草や木を原料とする環境に優しい「紙」を、水に弱いという欠点を補い、かつ化学的に安定で無害なシリカでコーティングする新しい技術開発に成功した。「超越コーティング」と名付けられたこの技術では、紙をコーティング液剤に浸した後に常温で30分程度乾燥させると、紙の表面に3ミクロン程度の厚さをもつシリカ層が均一に形成される。紙自体や大気中に存在する僅かな水を用いて素早く反応が進行するため、反応中に紙が劣化することもない。
形成されるシリカ層は強固なネットワーク構造を持ち、紙の機械的強度を増大させる一方で、比較的大きなナノサイズの隙間も持つため紙本来の柔軟さは損なわれず,隙間に残されるメチル基の効果で撥水性も獲得する。また、シリカ皮膜は無色透明なため、コーティング紙はもとの風合いを保つことができ、極めつけは、環境汚染の原因となる物質を含まず、廃棄後は通常の紙と同様に自然に分解する、環境に優しい材料だ。
超越コーティング紙は様々な分野に有用であり、安価で簡便なことから、本技術の応用拡大によりプラスチックゴミ問題の解決に寄与することが期待される。
論文情報:【Industrial & Engineering Chemistry Research】Modern Alchemy: Making “Plastics” from Paper