東京医科歯科大学の研究グループは、毛を生やす小器官である毛包の再生と老化が、幹細胞分裂タイプによって決定づけられていることを発見した。

 多くの組織や臓器で、加齢に伴い幹細胞が枯渇することによってその機能が低下していくことがわかっている。毛包もそのひとつであり、加齢に伴うDNA損傷や環境ストレスに応じて毛包幹細胞は自己複製を行ったり毛を生やす細胞を産生する代わりに表皮角化細胞を生み出すようになる。この表皮角化細胞がフケ・垢として排除されることによって、段階的に毛包のミニチュア化が進み、薄毛や脱毛が引き起こされるという。

 しかし、幹細胞の自己複製の実態はいまだ明らかではなく、このメカニズムにおける幹細胞分裂タイプの存在や、組織の再生や老化との関連についてはわかっていなかった。

 そこで本研究チームは、マウスの毛包幹細胞の系譜解析と分裂軸の解析を行い、若いマウスでは、毛包幹細胞が“再生型”の幹細胞分裂、すなわち典型的な対称分裂と幹細胞ニッチを倍加するための非対称分裂をしている一方で、加齢したマウスでは、“特殊な”非対称分裂(縦分裂)が起きていることを見出した。この特殊な幹細胞分裂は、基底膜に対し垂直に分裂する際に表皮角化細胞へと分化した細胞を生み出すもので、加齢のほかゲノムストレスなどの存在下で同様に観察された。

 また、毛包幹細胞におけるXVII型コラーゲンの発現減少に加え、上皮の極性形成に関わる分子としても知られるaPKCλの発現減少によっても引き起こされ、幹細胞の枯渇を進める原因となることがわかった。さらに、ヒトのミニチュア化した毛包においても、XVII型コラーゲンおよびaPKCλの発現低下が認められたことから、ヒト毛包にも同様の機構が存在することが示唆された。

 組織の再生と老化を制御する幹細胞分裂プログラムの一端を解明した本成果は、脱毛症の治療法や上皮組織の抗老化戦略の開発に繋がることが期待される。

論文情報:【Nature aging】Distinct types of stem cell divisions determine organ regeneration and aging in hair follicles

大学ジャーナルオンライン編集部

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