帯広畜産大学 菅沼啓輔特任助教、モンゴル国立獣医学研究所Narantsatsral研究員らは、ウマ属家畜の性病「こう疫」の病原体となる「こう疫トリパノソーマ」の培養株の確立に成功した。
「こう疫」とは、「こう疫トリパノソーマ」という原虫によって引き起こされるウマ属家畜の性病で、感染したウマは生殖器に浮腫や潰瘍ができ、貧血や神経異常が進行し最終的には死に至ってしまう。
農業を経済基盤としている発展途上国では、こう疫の蔓延で農業生産に大きな被害が生じ、一方、先進国ではオリンピック馬術競技・競馬などウマ生体の国際輸出入が年々増加しているため、国際獣疫事務局(動物版WHO)はこう疫を「国際的に重要な家畜疾患」に認定した。しかし、こう疫の研究を進める上で必須な培養標準株や効率的な培養順化法が確立されておらず、その対策や基礎研究は立ち遅れているのが現状だ。
そこで研究グループは、モンゴル国でこう疫重度感染ウマを発見し、その生殖器からのこう疫トリパノソーマの分離と培養順化(研究室で継続的にこう疫トリパノソーマを培養・維持できるようにすること)を目的に研究を開始。軟寒天培地を用いることで、こう疫トリパノソーマを、こう疫感染ウマの生殖器から実験動物を介さず直接培養条件に順化させ株化することに世界で初めて成功した。
軟寒天培地は、従来の液体培地や実験動物接種による培養順化方法に比べ、持ち運び・取り扱いが容易で、培養順化したこう疫トリパノソーマの増殖速度も速いことから、野外での効率的なこう疫トリパノソーマ分離・培養順化に適している方法であると考えられる。
今回確立されたこう疫トリパノソーマ培養株を用いることで、こう疫の予防法や新規こう疫治療薬の開発だけでなく、そのゲノム情報を公共のデータベースに登録し世界中の研究者に提供することで他のトリパノソーマ症(アフリカ睡眠病やシャーガス病)研究の進展も期待される。
本研究成果は科学誌「Parasites & Vectors 2016年8月31日」に掲載。