大学入試は年々多様化しており、なかには高校での活動の成果が重視されるものもある。たとえば工学院大学で2021年度入試から実施している総合型選抜「探究成果活用型選抜」は、高校での探究活動で身についた力が合否の鍵を握る形式だ。入試開始の翌年度には文部科学省「令和4年度大学入学者選抜における好事例集」に選ばれるほど注目を集めた。本稿ではそんな「探究成果活用型選抜」の特色を紹介する。

高大のつながりを強化する「探究成果活用型選抜」

 まずは「探究成果活用型選抜」が生まれた経緯を見てみよう。工学院大学では技術者だけでなく、大学院に進学して研究者になる人材も増やしたいと考えていた。これを実現するために生徒を中心に据えた「中・高大院連携教育」を模索。その一環としてスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校や理数系教育に力を入れる高校とのネットワークを構築してきた。特に探究活動支援については積極的に取り組んでおり、年間で20~30件の高大連携活動を実施している。その一例として、高校生の研究発表会の開催、各高校からの要請に応えて大学教員の講演派遣や探究活動のアドバイザーとして協力をしてきた。高大連携協定を結ぶ高校と共催して「化学グランプリ二次試験の実験を体験するワークショップ」なども実施している。また、大学の研究成果を発信している「工学院大学機関リポジトリ」に、協定校の高校生が作成した発表資料を掲載するといった珍しい取り組みも実施し、探究活動の成果を残すだけでなく、これから挑戦する高校生の支えにもなっている。

 これらの取り組みを通じて、日頃から高校と大学の間での連携を深め、高校教員と情報交換を行う中で、「探究成果活用型選抜」を導入することに至った。新学習指導要領で重視される「探究」を入試において評価する高校と大学を繋ぐ入試方式である。探究活動に取り組む高校が増えるほど、入試のニーズも拡大すると予想している。

 このような背景から始まった「探究成果活用型選抜」の出願要件は、理数系分野への興味を持ち探究活動の成果を発信した経験がある者、なおかつ大学でも技術者や研究者をめざす意欲のある者を募っている。

2段階の入試で、探究力のある人材を見出す

 11月に実施する「探究成果活用型選抜」では2段階の選考を設けている。全学のアドミッションポリシーである「多面的基礎学力(数学や英語基礎的運用能力)を有する人物」「志望する分野の科学技術をチームで共に学び、国際社会の中でそれを生かす意欲と関心とを有する人物」と、各学部のアドミッションポリシーに合致する入学者を見出すためだ。

 1次選考では基礎学力が定着しているかを確認するため、数学と英語の試験を実施する。さらに探究活動に関する書類(調査書、報告書、志望理由書)を吟味し、選考通過者を決定。論文やポスター発表の資料も提出書類に含まれている。

 2次選考では、探究活動に関するプレゼンテーション行い、理解度や説明能力を確認し、面接で探究活動を通して学んだことや大学でどのように学びを深めていくかについての考えを確認する。高校での活動が評価につながる点、そして学力試験の科目数が少ないため対策をしやすい点が魅力的だ。

 また、「探究成果活用型選抜」は他大学との併願が可能であり、奨学金制度の対象試験にもなっている。奨学金の対象は、各学科合格者のうち成績が優秀な者。年間授業料の50%が減免される。さらに入学後も一定水準の成績を維持すれば、減免期間は最大4年間に。金銭面の負担も軽減されることで、学生は大学での学びに集中しやすくなるだろう。

入試後のサポートも充実

 2021年度の導入開始から5年ほどが経過した「探究成果活用型選抜」。当初は志望者が9名ほどだったが、現在では毎年約40名が受験するようになった。この選抜を利用して入学した学生たちは、高校での活動が評価される点に魅力を感じているそうだ。また、高校時代の探究発表会で工学院大学を知った学生もおり、高大連係の取り組みが着実に実を結んでいることがうかがえる。

 工学院大学では当該選抜も含む、年内入試合格者に入学前教育を提供。オンラインで数学・理科・英語の任意課題に取り組む。合格時点のレベルに関係なく、大学教育に必要な基礎学力を身につけられる仕組みだ。入学までの期間に継続的な学習習慣を維持し、大学生活を円滑に始める準備として取り組むことで入学後の教育と連結を図っている。また、協定校に対しては、入学者の追跡調査結果をフィードバック。こうした手厚いサポートも、高大連携のさらなる強化につながっている。

 今後も受験生のニーズや高校の状況を踏まえて、「探究成果活用型選抜」は変化を見せていくかもしれない。それでも意欲ある学生の育成を重視する姿勢は、これからも維持されるだろう。工学院大学が見据える「中・高大院連携教育」がどう実現していくか、注目せずにはいられない。

工学院大学

伝承を継承しつつ、さらなる進化を続ける大学

2011年の日本初の「建築学部」開設を皮切りに、2015年「先進工学部」創設、2016年「情報学部が従来の2学科体制から4学科体制に、そして2023年には情報学部システム数理学科が情報科学科に名称変更し、常に時代に即した改革を続けています。さらに、八王子キャン[…]

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