文部科学省が8月29日に「令和8年度 国立大学の入学定員(予定)について」を公表しました。ここ数年、理系学部の入学定員が増え続けていますが、新設される学部や学環などを見ても佐賀大(コスメティックサイエンス学環)、山口大(情報学部)や熊本大(共創学環)など理系・文理融合系が目につきます。また、同日には、新設される私立大や入学定員・収容定員を増やす私立大についても公表されていますが、これを見ると都市部の私立大で定員が増えることになっています。受験生にとっては嬉しいことですが大学間の学生募集の厳しさがさらに増すことになります。

 

国立大の教育系で入学定員が130人減少、新学環などの入学定員に活用予定

 文部科学省「令和8年度 国立大学の入学定員(予定)について」の総括表を見ると、国立大学の入学定員は理工系が100人の増加、農水系で52人の増加となっています。理工系偏重のここ数年の傾向と同じようにも見えますが、増えた100人のうち50人は熊本大に新設される共創学環(入学定員80人)の一部に活用されていますので、実際には山形大(理学部)10人増、埼玉大(工学部)20人増、京都大(工学部)20人増の50人が理工系で増える入学定員になります。

 また、人文社会系の入学定員が32人減っており、教育系は130人も減少しています。教育系で減少数が大きいのは埼玉大(教育学部)で60人減少していますが、そのうち20人が前述の工学部定員増に、あとの40人は教養学部の定員増に活用されているようです。埼玉大の教養学部には来年、「共生構想専修課程」(心理学専攻/ジェンダー研究専攻)が定員40名で新設される予定です。近年、増えている共創系ではなく、“共生”がキーワードになっています。

 熊本大(教育学部)でも入学定員が50人減少していますが、この分が前述のように工学部の入学定員増を経て共創学環の入学定員に活用されているようです。新設される共創学環ですが、ホームページを見ると他の国立大で設置されている共創系学部と同様に、特定の専門分野を学ぶというよりは、社会課題などの解決方法とそのための知識などを学修することを目指しているようです。

 こうした新学部等の中でも、特に国立大学では佐賀大(コスメティックサイエンス学環)が目立つ存在です。私立大でも薬学系やバイオ系の学部などで化粧品関係の分野を学ぶコースや専攻などは従来からありますが、“コスメ”という名称を付けているところはほとんど見られません。珍しい学部(学環)名称だと思います。

“コスメ“といえども単なる化粧品研究にあらず、本格的な応用化学

 コスメティックという名称からややカジュアルな印象を持つかも知れませんが、公表されているカリキュラムを見ると、応用化学を軸にして、栄養学や植物学、薬学などの分野も含む、本格的な学際的サイエンスの学環です。加えて、佐賀県は県の産業政策として、コスメティック構想を推進しています。佐賀県にはすでに複数のコスメティック関連企業がありますが、さらに多くのコスメティック産業を集積させて、コスメに関連する自然由来原料の供給地となることも目指ざすのがコスメティック構想です。新設される佐賀大のコスメティック学環はこの構想に密接に関わるものと思われます。

 また、近年増えている共創系の学部ですが、国立大学の場合は学際的なカリキュラムで多分野を学ぶという点では各大学で共通していますが、用意されている学修分野などは当然ながら大学によって異なります。私立大学に至っては学部名称に共創と付いていても、学部系統が人文系だったり生活科学系だったり、内容が全く異なるケースが見られます。来年新設予定の熊本大(共創学環)も同じ九州地区の九州大(共創学部)とは教育課程が異なるのですが、大学入学共通テストの自己採点結果で、九州大から熊本大に志望変更する受験生がそれなりに発生しそうなことが今から何となく見えてしまいます。

 なお、共創系の新学部は私立大学でも予定されています。成蹊大に国際共創学部が新設予定となっており、学部としては学際系ですが、国際日本学専攻と環境サステナビリティ学専攻の2専攻に分かれていますので、受験生には学修内容が分かりやすいと思います。環境サステナビリティ学専攻は学修内容に地理学が含まれていますので、地理学科を目指す生徒の受験もありそうです。高校の地理総合では地球環境問題や気候変動、防災なども学びますので、生徒にとっても地理と環境の関係はイメージしやすいのではないでしょうか。

新設大学や学部新設に伴う入学定員増の一方で・・・

 来年は新設される私立大が3校あります。昨年11月に文部科学省が公表した資料では申請大学数は8校でしたので審査の途中で5校が開設を延期するなどしたようです。東京23区内で定員増が認められないような状況ですので、大学数が増えて入学定員が増えることに対するハードルは近年上がっているようです。新設大学は3校とも小規模ですので、入学定員の合計は340人にとどまりますが大学の入学定員が増えることになります。

 これらの新設大学の中ではコー・イノベーション大学(共創学部)がユニークです。カリキュラムを見ると1年次は岐阜県飛騨市のキャンパスで学びますが、2年次以降は全国で社会課題に取り組むことになっています。従来の大学とはかなり異なる学修の仕組みです。この辺りは今年から東京が新しい拠点に加わったアメリカのミネルバ大学を想起させます。通信制と通学制の言わば「良いとこ取り」のようなイメージですが、新しい試みだけに文部科学省がよく認可したと思います(英断です)。ただ、学年進行とともにどのように学修が進むのかが今ひとつイメージしづらいので、早くカリキュラムマップや学修の仕組みが分かる資料をホームページにアップしてもらいたいところです。

 また、改組や学部新設などに伴って、都市部の難関私立大で入学定員が増えます。収容定員変更の資料を見ると、芝浦工業大40人増、東京理科大200人増、立教大204人増、成蹊大170人増、立命館大210人増、関西大70人増などとなっており、結構な規模で入学定員が増加します。この中では東京理科大の理学部に新設される科学コミュニケーション学科が注目の存在です。現代社会では正しい科学の知識を社会に伝える人材が必要不可欠ですので、理系総合大学ならではの新学科による社会貢献と言えるでしょう。

 一方で入学定員を減員する大学もあります。日本私立学校振興・共済事業団「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」によると、2025年度で私立大学の入学定員はすでに前年よりも1,114人減少しています。中小規模の私立大学で入学定員の削減が進んでいるためです。入学定員の増加はまとめた資料が公開されますが、入学定員減少についてはまとまった資料がほとんどないので、全容がつかみづらいところがあります。来年度に関しては、河合塾「教育関係者のための情報サイトKei-Net Plus」で一部が一覧表で掲載されていますが、やはりと言うか女子大が目立ちます。この入学定員削減のその先には、最悪の場合、学生募集停止や閉校も見えてきます。

 公立の小・中学校、高校では各地で再編による統廃合が進んでいますので、母校がすでに無くなったという方もいるでしょうが、大学の母校が無くなるというのはダメージがかなり大きいことだと思います。文部科学省の資料では、2003年以降、統合されたケースを除いて、大学の廃止はすでに22大学ありますが、現在すでに今後の学生募集の停止を公表している大学も複数ありますので、残念ながら無くなる母校はこれからも増えていくのでしょう。

参考にしたサイト
【文部科学省】令和8年度 国立大学の入学定員(予定)について(8月29日)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/1408700_00010.html

【熊本大学】共創学環
https://www.kyoso.kumamoto-u.ac.jp/

【佐賀大学】コスメティックサイエンス学環
https://www.cosme.saga-u.ac.jp/

【成蹊大学】国際共創学部
https://www.seikei.ac.jp/university/newfaculty/

コー・イノベーション大学
https://coiu.jp/

【東京理科大学】理学部 科学コミュニケーション学科
https://dept.tus.ac.jp/dsc/

【日本私立学校振興・共済事業団】私立大学・短期大学等入学志願動向
https://www.shigaku.go.jp/s_center_d_shigandoukou.htm

【河合塾Kei-Net Plus】2026年度入試状況分析&トピック解説
https://www.keinet.ne.jp/teacher/report/kjreport/25/250908.html

【文部科学省】令和8年度からの私立大学等の収容定員の変更に係る学則変更予定一覧(8月29日)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/1422602_00009.htm

【文部科学省】令和8年度開設予定大学等一覧(8月29日)、令和8年度開設予定学部等一覧 (8月29日)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/attach/1420729_00023.htm

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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