法を学ぶことの意義・醍醐味とは ~法学を志す若者へのメッセージ~
結局、法学とは何なのか? この難題については本書の中でも触れていますが、私自身の見解では、「私たちの社会にとって『あるべきルール』を自分自身で提示すること」だと思っています。もちろん、社会に適合した「あるべきルール」を見つけ出すことは容易ではありません。さまざまな人が、それぞれの環境の中で、多様な価値観を持って生きる現代社会において、何が「あるべきルールなのか」に対する絶対的な回答が存在せず、その正当性を100%実証することはとても難しい。さらに、その「あるべきルール」の必要性や解釈も、時代の流れとともに変化していきます。法学は、このような不確かさの中に存在しているのです。
言い換えれば、不明確なものを実証するために、論理的な思考を持ってものごとの本質に迫るのが法学なのです。ただし、「論理的=機械的・効率的」ということではありません。法学ではマジョリティ(多数決)だけでなく、マイノリティ(少数意見)の権利も尊重することを基本姿勢としています。論理的でありながらも、ある意味「人間くさい」ヒューマンな部分もあるからこそ、人として情熱を持って社会に訴えることができる。不確かさの中にありながらも、他者や社会全体を説得するためには、いかにアプローチすればよいのかを探求するところに、法学の醍醐味があるのです。
よって、法に携わる者は、さまざまな人が生きる社会の中で、いま何が起きているのか、何が問題となっているのか、誰が何を訴えているのかを鋭くキャッチして、人の痛みも理解した上で、社会に適合した公正な回答を導いていかなければいけません。そのためには、専門的な知識も必要ですが、何よりも重要なのは自分自身の感性を磨くことです。
もし、本書を読んで(あるいは、もうすでに)法学の道を志したい、法学に興味がわいてきたという高校生がいれば、まずは「自分の感性を広げる」ことを、日々の生活の中で意識してみてください。たとえば、新聞やニュースを通して社会に広く目を向け、どこで・どんなことが起きているのか、それに対して自分はどう考えるのか、家族や友達と話してみる。音楽や美術を鑑賞して、心を潤すこともいいでしょう。普段から身の周りのことを感受性豊かにキャッチすることで、新たな価値観を発見し、ものの見かたや考え方の幅が広がり、人間的にも一回り大きく成長できるはずです。そして、実際に大学で法学を学ぶ中で、その奥深さとダイナミズムに触れながら、人として魅力ある法のスペシャリストを目指して、社会に大きく羽ばたいていってほしい――そう願っています。
【専門】民法
【主著】
『高校生からの法学入門』(中央大学出版部、2016年、共著/第2章・9章・終章担当)
『法学入門』(中央経済社、2014年、共著/第3章担当)
『民法[財産法]を学ぶための道案内』(法学書院、2011年)
『民法3(債権総論)』(中央大学通信教育部、2009年)