「テクノロジーとヒューマニティの融合と調和」という理念のもと、工学部と人間社会学部の2学部5学科が設置された埼玉工業大学。国家資格となる「公認心理師」が創設されるにあたり、人間社会学部心理学科および大学院心理学専攻では、本年度より専門のカリキュラムがスタートしています。実践力の備わった心の専門家を養成する、本学ならではの取り組みについて、副学長である小野広明教授を中心に、教員の藤巻るり准教授、心理学科の卒業生代表として高木さん、在校生代表として澤上さん、中村さん、畠山さんに、お話をうかがいました。

 

 

急速に発達する科学技術をより良く使っていくために
人間の「こころ」を育む実践的なカリキュラムを展開

 埼玉工業大学には2002年より「心理学科」が開設されていますが、「工業」という大学の名称に隠れて、その認知度はなかなか上がっていないのが実状です。そうした状況にありながら、高木さんをはじめ、澤上さん、中村さん、畠山さんが、本学を選んだ動機として挙げているのが、「心理学に関する充実したカリキュラム」です。

 具体的には、心理学の基礎を学ぶ授業を1~2年次に設置することで、幅広い教養や知識を修得。そのうえで3年次からはゼミを含めて、専門科目中心の実践的な授業が展開されていきます。なかでもゼミでの学びは、学生のみなさんにとって印象深いようで、その魅力を「集団の力で、自分を前に前に進めてくれる連帯感」(高木)、「自分だけでは決して気づけない部分を、まわりのみんなが気づかせてくれる」(澤上)と語ってくれました。

 さらに、心理学科の学びが、学生のみなさんの将来にどのようにつながっていくのか。その点については、カウンセラーなどの心理職でその専門知識を活用できることはもちろん、「卒業後は教育関連の仕事に就く予定ですが、在学中に学んだ発達心理学などが、子どもたちと交流するうえで役立ってくる」(中村)といった意見や、「仕事に取り組む際、人間を言葉だけでなく、もっと内面的な部分から深く理解していくことができる」(畠山)といった意見を聞くことができました。

 

 

「臨床心理センター」でのさまざまな実習を通して
教科書だけでは学ぶことのできない生きた知識を修得

 続いて、藤巻准教授から、心理臨床に関わる実践的な授業について説明していただきます。

 まず、本学の心理学科には、臨床心理専攻とビジネス心理専攻が設置されており、臨床心理士の資格を持つ教員を中心に、臨床心理学分野の教育研究に力を注いでいるのが特長。2007年度には、大学院人間社会研究科の臨床心理学教育研究分野が臨床心理士養成課程(第1種)の指定を受け、臨床心理士などの育成機関としても期待されています。

 他大学にはない、本学ならではの取り組みとして紹介したいのが充実した設備が整っている「臨床心理センター」です。当センターは、本学における心理学の教育研究を推進し、その成果を地域の方々に還元する目的で設置されました。センターは学生・院生の臨床実習の場として活用されるほか、一般の方を対象にした心理相談、心理学セミナーなどを開催しています。

 その一例が、深谷市との提携のもと、就学前の児童や、その保護者を対象に開講している「子育て支援幼児グループ」。教員とともに、学生・院生が子どもたちと遊んだり、母子の関わりに参加しながら観察をすることで、心理職に必要な知識やスキルを実践的に学んでいくことができます。実際の体験を通して、「教科書を読んでいるだけではわからない、貴重な発見がたくさんあった」と語るのは高木さん。澤上さんも「最初は戸惑うことばかりでしたが、子どもたちと同じ目線に立ち、その行動に直接かかわっていくことで、楽しいことや学ぶことが本当に多かった」と語ってくれました。

 教員の立場からしても、「学生たちは子どもたちとの触れ合いのなかで育てられている」というのが、この取り組みに対する印象です。活動の後には全員で振り返りをします。関わりの中で生じた驚きや喜びといった素朴な体験が、心理学的にはどのような意味を持っているのか、教員は学生の生き生きとした実践を理論につなげていく手伝いをします。グループに参加する子どもたちにとっても、学生・院生にとっても素晴らしい体験を生み出す、地域に根差した互恵的な実習を通して、今後も魅力的な学びを届けていきたいと考えています。

 

国家資格として創設された「公認心理師」に対応した
新たなカリキュラムが本年度よりスタート

 そして、2017年に施行された「公認心理師法」を受けて、本学心理学科および大学院心理学専攻では、「公認心理師」の受験資格が得られるカリキュラムが本年度よりスタートしています。

 公認心理師とは、心理職においては国内ではじめてとなる国家資格。大学を卒業後、大学院で必要な科目を修めるか、3年以上の実務経験を経て受験資格が得られます。その仕事内容は、学校のスクールカウンセラー、病院では悩みをもつ人のカウンセリングや心理検査を担当。ほかにも、児童相談所、家庭裁判所、警察、企業の社内相談室、就職支援センター、私設の相談室など、さまざまな分野で心理の専門家としての活躍が期待されています。

 本学の公認心理師カリキュラムでは、心理学に関する幅広い知識とスキルを身につけられるよう、臨床心理学と基礎心理学についてバランスのとれた授業を実施。前述の臨床心理センターをはじめ、保健医療、教育、福祉領域等施設で行う充実した実習プログラムを準備することで、資格取得のためのサポートをしていきます。

 心理学は、自己理解と他者理解を生涯にわたって続けていく学問です。だからこそ、そこには無限の魅力や可能性がつまっているともいえます。高木さんは心理学科を選んだ理由として「ゴールのない仕事を選びたかった」と語ってくれました。本学では、これまで紹介してきたカリキュラムはもちろん、今後も、さらなる学びの発展に努めながら、人間を深く理解することのできる、実践力の備わった心のスペシャリストを養成していきたいと考えています。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。